ムーミン経由、ドイツ行き
大聖堂に架かる橋
ニール 
・鐘の鳴る町

・川の流れる町
天国への509階段
・その1 ・その2
ひとつきだけの世界遺産
街で人気のコンディトライを探して
中華飯店で日韓友好?
ショッピングモール・アドベンチャー
・その1
・その2 ・その3
ケルンぶらぶら歩き
・その1 ・その2 ・その3
たった一時間のラインクルーズ





 教会の鐘の音に加えて、もうひとつ、この町を印象的にしているものがある。ライン川だ。
 だがライン川といえば、「古城や岩山がそびえる渓谷を、悠々と流れる大河」というステレオタイプなイメージしかなかった私は、最初、この川があの有名なライン川とは気づかなかった。こんな田舎町に、こんな普通 に流れ込んでいるなんて思わなかったのだ。
 だがドイツの歴史を少しでも学べば、ライン川が町の中心を流れていることに何の疑問も持たないはずなのだ。私のような無知な人間は、ライン川というとすぐ「ローレライ」や「ライン川クルーズ」などの観光的イメージを連想してしまいがちだが、この地に住む者にとっては、昔からドイツの南北を結ぶ重要な交易路で、生活に密接に結びついた川だったのだから。
 ドイツ人がこの川を「父なるライン」「ドイツ人の心のふるさと」と呼ぶのも、単に風光明媚な大河というだけでなく、ライン川のおかげでドイツが経済的に発展してきた歴史があるからこそ、なのだろう。

 6月10日早朝、ベルリンから夜行列車でケルンに帰ってきた私は、朝の光に輝くライン川を散策する機会に恵まれた。
 昨日ベルリンでWM開幕戦と、その後のクラクション祭りを体験してきた後だっただけに、清冽な朝の空気を吸いながらの河辺の散歩は、心も体も生き返るようだった。やっぱり、住むならこんな、ニールのような町がいい。ベルリンは確かに大都会で、毎日が刺激に満ちていて飽きそうにないけれど、住むには、少し街の規模が大きすぎる。もっとこじんまりとした町の方がいい。かといってあんまり田舎だとそのうち飽きてきそうだし、適度に田舎で、すぐ近くには大きな川が流れていて、散策コースには事欠かない。その上、電車に10分も乗れば繁華街に出られて、買物したり、演劇やコンサートを楽しんだりといった文化的な刺激も味わえる―――そんな都合のいい町が私の理想。そしてニールは、そんな理想にぴったりの町だった。

朝日を受けて水面 がきらめく。川向こうにはレバークーゼンの町が見える。

 そんなことを考えながら、柵ごしに、ライン川をのぞきこむ。朝日が川面 に反射して、きらきら光っているのがきれいだった。
 川の向こうに見える対岸の町は、レバークーゼン。2001-2002シーズンにはチャンピオンズリーグの決勝戦に進出するなど、大躍進したバイヤー・レバークーゼンのホームタウンだ。クラブの親会社は、アスピリンで世界的に有名な製薬会社・バイエル社。レバークーゼンの町自体も、そのバイエル社の経済力の恩恵を十二分に受けており、車がケルンからレバークーゼンに入った途端に、道路が立派になるのが分かるという。
 視線を対岸から下にずらすと、自分のすぐ下の水面を、一羽の白鳥が泳いでいるのが目に入った。ライン川を泳ぐ白鳥――文字にすると優雅だが、目の前のライン川は灰色に濁っている。白鳥も、泳ぎながら餌を探しているらしく、浅瀬まで泳ぎ着くと、しきりに首を水中の泥地に突っ込んでいた。その姿は「優雅」とはほど遠かったが、私は懸命に生きる野生の白鳥に心を打たれた。日本でよく見かける、公園の湖などで飼育されている白鳥とは気合いが違う。
 旅行中の、人と人との出会いが一期一会なら、自然や、動物との出会いも一期一会だと思う。この日、早朝だから出会えた野生の白鳥と、朝日にきらめくライン川は、私の旅の静かなハイライトだった。

ライン川に向かう途中で見つけた、古い教会。

ライン川の浅瀬の泥に首をつっこんで、餌を探していた白鳥。