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旅行中、もっとも頻繁に目にしたのがアディダスの広告「IMPOSSIBLE
IS NOTHING」。特にケルン中央駅は駅全体がアディダスの広告会場になっており、構内のいたるところでバラックを見かけた。 |
ドイツを象徴する番号となった“13”
混みあうケルン中央駅の天井で、薄暗い地下鉄の構内で、高級ブティックのショウウィンドウで。ドイツのいたるところでバラックと出会った。そして私は街角でバラックを見つけるたび、それがどんな小さな広告であっても喜々としてカメラを向けた。私は彼のファンだったのだ。
フランクフルトでは、そびえ立つビルの壁面から地上を見下ろす壮大なバラックと出会った。かと思えば、軽食を取ろうと立ち寄ったマクドナルドで、コーラの紙コップに印刷されたバラックと出会い、その落差の大きさに苦笑した。紙コップだけでなく、ハンバーガーやフライドポテトの容器にもバラックは印刷されており、それらは用が終わると次々にゴミ箱に捨てられていった。ゴミ箱にうず高く積まれたバラックを見て、「国民的ヒーローすらゴミのように消費していく現代社会の縮図」を感じた―――というのは大げさだが、なんだか物悲しい気持ちになったのは確かだ。
マクドナルドでバラックを発見。さっそく相席になったおじさんが食べ終わったハンバーガーやコーラの容器を、お願いして撮らせてもらった。マクドナルドは2006WMのスポンサーでもあるので、一定以上の買物をするとWMチケットプレゼントへの応募資格がもらえる。 |
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それでも私は、ファンとしてはちょっぴり辛くなるようなその光景をも忘れまいと目に焼き付けた。他にも田舎の商店のディスプレイや壁に貼られたステッカーなど、ありとあらゆるところに出没するバラックを見逃すまいとした。彼の写
真だけでなく、彼の代名詞ともいえる背番号「13」のユニフォームを着た人や、マネキンを見るだけで嬉しくなった。「ドイツのサポーターは皆、13番のユニフォームを着てスタジアムに向かう」と書いていた記者がいたけれど、それは半分大げさで、半分当たっていることも分かった。確かに13番のユニフォームを着た人は多かった。だがそれは「バラックのファン」だからというだけでなく、「手っ取り早いから」「他に売ってないから」という理由も大きいような気がする。ドイツのスポーツ店に行くと、「13・Ballack」とあらかじめマーキングされたユニフォームが大量
に売られており、ほとんど「ドイツ代表ユニの初期設定」といった感じだった。少し大きなスポーツ店ではバラックの他にポドルスキーやシュヴァインシュタイガーのユニフォームも売られていたが、それだけ。その三人以外のユニフォームがほしいとなると、ベルリンのような大都会の店に行くか、ネットなどの通
信販売を利用しなくてはならないようなのだ。なんという選択範囲の狭さだろうか。
また、これも実際にスポーツ店に行って初めて分かったことだが、一口で「13番ユニ」といっても、バラック以外のバージョンもたくさんある。13番ユニの代表バージョンとでもいおうか、「13・Deutschland」や「13・Germany」と背中にプリントされたユニフォームやシャツが、様々なデザインで売られていた。そしてそれらのシャツやユニを着た人を数多く見た。特に女性や子どもの姿が目立った。きっと胸元が大きく空いたセクシーなデザインや、子ども用のカラフルなチビサイズなど、デザイン・サイズが豊富に揃っているからだろう。
なので遠くから13番の背中が目に入っても、「あっ、あの人はバラックファンなんだ」と思うのは早合点だ。「13」という数字は既にバラック個人を離れ、ドイツの象徴となっていることを、私はこの国に来て初めて気付いたのだった。
だが「13」がそうしてドイツの象徴となったのも、バラックが長年に渡ってドイツ最高の選手として活躍し続けているからこそ、だろう。私はそれがまるで自分のことのように嬉しく、なんだか誇らしい気分になった。もともとミーハーな性格だと自覚しているが、それでもここまで惹かれて、応援したくなる選手は初めてだった。それも遠い異国の選手に。 >>続く
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ケルン中央駅メインホール天井画の、バラックの部分を拡大。 2
ドイツに来て初めて出会った広告がこれ。「バラックの子ども時代」を再現している訳ではなく、大人になったバラックを強引に子どもにしているので、かなり不気味。
3 がきんちょバラックの広告は、ケルン中央駅の地下構内のほか、発着ホームにも飾られていた。
4 こちらは、ケルン・ドイツ駅にあるDB(ドイツ鉄道)案内所の壁に貼られていたポスター。バラックはDBのイメージキャラクターであるため、ドイツ中のどの駅に行っても必ずバラックを起用したパンフレットやポスターと出会えた。
5 ケルン中央駅の天井画俯瞰図。やはりドイツだけあって、バラックが天井画の「主役」として真ん中に大きく描かれていた。他には、ポドルスキー、ベッカム、カカなども目立っていた。日本からは中村俊輔選手が「出演」。
※ ケルン中央駅について、詳しくは「ひとつきだけの世界遺産」を参照 |
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