ムーミン経由、ドイツ行き
大聖堂に架かる橋
ニール 
・鐘の鳴る町

・川の流れる町
天国への509階段
・その1 ・その2
ひとつきだけの世界遺産
街で人気のコンディトライを探して
中華飯店で日韓友好?
ショッピングモール・アドベンチャー
・その1
・その2 ・その3
ケルンぶらぶら歩き
・その1 ・その2 ・その3
たった一時間のラインクルーズ




世界のスター選手たちが天を舞う。日本からは中村選手の姿も。よく見ると、天井に直接描かれている訳ではなく、絵が描かれた布を天井に張り付けているのだと分かる。布の継ぎ目が見えるだろうか?※クリックすると拡大


 ケルンの名物といえば、なんといっても大聖堂。ユネスコ世界遺産にも登録されている世界最大のゴシック建築を見ようと、毎日、世界中から大勢の観光客が訪れる。
 だが大聖堂のすぐ前にあるケルン中央駅にも、有名な世界遺産に匹敵する「名物」が出現し、大聖堂目当ての観光客の足を止めさせていた。彼らは駅構内に入るなり、天井を見上げて「ワーオ!」「ルックアップ!」と目を輝かせた。カメラを向ける者も多く、ちょっとした「観光名所」と化していた。ただし、一ヶ月限定の。

 


ケルンのWMフィーバーを報じるBild紙ケルン版(6月6日付)。

 「ケルン中央駅の天井が凄いことになっている」というのは、前日、私が宿泊しているH氏宅に遊びにきたK君から聞いていた。翌朝、近くの売店で購入したBild紙のケルン版も、WM間近のケルンの街の盛り上がりを伝える記事の中で、中央駅の天井画の写 真を載せていた。実物よりも先にその写真を見ていた私は、「昨夜、この駅を通 ったときには天井には何も描いてなかったのに、まさか一晩でこれだけの絵を描いたのか?」と驚いた。
 すぐさま地下鉄に乗って、ケルン中央駅へと向かう。実物を見て、納得がいった。壁に直接描いているのではなく、あらかじめ布に描いてあった絵を、天井一面 に張り付けているのだ。なので正確には「天井画」とは言えないかもしれない。それでも、その眺めは壮観のひとことで、私は首が痛くなろうとも、飽きずにその絵を見上げていた。
  天井一面に、バラック、ジダン、ベッカムたちが躍動している。中村俊輔もいる。描かれた選手の顔触れを見れば、その絵がアディダスの広告であることは一目瞭然だった。が、こんな広告なら大歓迎だ。絵のタッチや、また背景に古代の神殿が描かれてることから見て、恐らくミケランジェロの「システィーナ礼拝堂天井画」を模しているのだろう。天から無数のサッカーボール(2006WM公式球のチームガイスト)が降ってきて、それを選手たちが豪快に蹴り上げている。彼らの蹴ったボールが今にも自分たちの頭上に落ちてきそうで、躍動感あふれるいい構図だと思った。
 だが天井画よりさらに私の心をとらえたのは、それを見上げる人々の表情だった。大聖堂目当てに世界中から大勢の人が集まる中央駅だから、人種も実に多彩 で、バラエティに飛んでいる。だが天井を見上げたときの目の輝きはみな同じだ。白人も黒人も、大人も子どもも、歓声を上げて天井を見上げ、お気に入りの選手を指さして笑顔を弾けさせている。
 私はそんな光景を見るのが好きだった。サッカー好きであろうとなかろうと、この場にいる者全員が、もうすぐ始まるサッカーの大イベントに胸を躍らせている。ワクワクした気持ちを共有している。それがたまらなく嬉しいのだ。この時期にドイツに来てよかった、心からそう思えた。だってこんな光景は、WMのあるこの時期しか見られない。あと一ヶ月もすれば、WMが終わるとともに、この天井画も消されてしまう。たったひと月だけの期間限定。それがかえって、この天井画と、それを見上げる人々の生き生きとした表情を忘れ難いものにしていた。すぐ目前にそびえ立つ大聖堂にも劣らない、価値ある世界遺産だと思った。

天井を指差す男の子は人形。ドイツだけあって、バラックが天井画の「主役」として真ん中に大きく描かれている。
他には、ベッカム、カカなどが大きく描かれていた。
ポドルスキーも出演。アデイダスと契約しているドイツ選手はバラック、ポドルスキー、シュヴァインシュタイガー、クラニー(しかしWMは落選)だが、ケルンという土地柄を考えてポルディが選ばれた模様(この時はまだFCケルン所属だった)

幾重にも張り巡らされた鉄筋のアーチが美しい、中央駅発着ホーム。スター選手たちの肖像写 真がずらりと並び、まるで「サッカー美術館」のようだった。

「この時期ならでは」と思わされたのは、天井画のある構内だけではなかった。列車の発着ホームでも、壁面 にスター選手たちの巨大な顔写真がずらりと並び、行き交う人を睨みつけていた。こちらもアディダスの広告で、どうやらケルン中央駅全体が、アディダスにジャックされているらしかった。さすがアディダスの本家本元、ドイツである。と同時に、「駅全体がサッカー広告で埋め尽くされているなんて、やっぱりサッカーはドイツの国民的スポーツなんだな」という認識を強く私の胸に刻みつけた。

 アディダスとは無関係の広告も発見した。ドイツに来た初日、宿泊先のニールへ行くため、中央駅の階段を降りて地下鉄乗り場に向かったとき。薄暗い地下構内に、妙にふてぶてしい子どもの顔が浮かび上がっている。あの顔、どこかで見覚えがある…と思いながら近づいてみると、それは「WELT KOMPAKT」という日刊紙の広告看板だった。子どもの顔はバラックそっくり。それもそのはず、バラックを子どもにしたリアルなイラストだったのだ。キャッチコピーは「BIG NEWS,SMALL SIZE」。有名な日刊紙WELTのコンパクト版を知らしめるため、ビッグスターを小さい子どもに描いたのだろう。
 その意図はよく分かるし、インパクトのある広告だと思う。にしても、こんな目の据わった子どもいないって…と、私はそのイラストを前に苦笑した。後日、駅構内で同じシリーズのカーンバージョンも見かけたが、まだカーンの方が「子どもらしい子ども」だった。「いるいる、こんな子」と頷きたくなるような。しかしバラックの子どもバージョンは、子どもにしてはあまりにも貫録がありすぎる。しかもこの広告が、私がドイツに来て初めて出会ったサッカー関係の広告だった。ドイツに来て早々、私はこの国のマスメディアのウィットに富んだセンスと、サッカーがいかに深く生活に根づいているかを気付かされたのだった。

 駅というのは、旅行者にとっていつも特別な場所となることが多い。駅の印象が、その街の印象を決めるといっても過言ではない。WMに沸き立つケルン中央駅は、「ドイツ=サッカーの国」という印象を私に植え付け、かけがえのない 「一期一会」の光景をたくさん、私の胸に残してくれた。

ケルン中央駅構内で見つけた、カーンとバラックの広告。よく見ると、カーンの背景にうっすらゴールネットが見える。
カーンの方は「いるいる
、こんな小生意気な子」と微笑ましいが、バラックの方は…マフィアみたい。昔のハリウッド映画「ダウンタウン物語」に出てきそうなふてぶてしさだ。