ドルトムント訪問記
・その1 ・その2
・その3 ・その4
   
   
   
   
   
   
   
   




ドルトムント中央駅を出ると、そこには黄色い壁がそびえていた。

ワールドカップ中であろうとも、ドルトムントは代表<<<クラブ

 特に有名な観光地でなくても、キラリと光る個性的な街を訪ねるのは、旅のかけがえのない楽しみのひとつ。ましてやそれが、ワールドカップの試合会場に選ばれた街とあればなおさらだ。

 どんな小さな街にもたいてい、素晴らしいサッカーシュタディオンがあるのがドイツの魅力だが、ドルトムントではそれが際立っている。「ビールとサッカーの街」と形容されるほど、サッカーが盛んなこの街は、少し歩くといたるところで地元チーム「ボルシア・ドルトムント」のチームカラーであるイエローや、ロゴマークが目に入る。
 「ドイツ最高」といわれる熱狂的なサポーターがいることで名高いボルシア・ドルトムント。そのホームシュタディオンであるヴェストファーレン・シュタディオンは、これまた「ドイツ最高」のシュタディオンと名高い。「ドイツ代表がこのシュタディオンで戦うと、負けない」という伝説もあるのだとか。(その伝説は、準決勝のイタリア戦で崩れることになるのだが)
 だがこのシュタディオンを何より有名にしているのは、そうした「伝説」よりも、サポーターの応援風景だろう。黄色いユニフォームを着たボルシア・ドルトムントのサポーターたちがスタンドを埋め尽くすそのさまは、「ヴェストファーレンの黄色い壁」と呼ばれ、シュタディオンの名物となっている。スタンドの傾斜がきついため、ピッチに立つ選手からはまさに「壁」のように見えるという。応援される選手たちにとってこれほど力強く、逆に敵チームにとってこれほど厄介なサポーターはないだろう。私も一度、その「黄色い壁」を体感してみたい。そう思っていたが、そのためにはワールドカップではなく、通 常のリーグ戦開催時期にドイツに来なくてはならない。スタンドが「黄色い壁」と化すのは、ボルシア・ドルトムントの試合開催時だけなのだから。

 だから、今回のドイツ旅行でドルトムント名物である「黄色い壁」を体感はできないと思っていた。ベルリンから戻った翌日の6月10日、トリニダード・トバゴ対スウェーデン戦のチケットが「あわよくば」手に入るのではと一縷の望みを抱きながら、私はケルンからドルトムント行きの列車に乗った。
 ドルトムント中央駅に着いたのは、昼過ぎだったと思う。改札を出るとまず、「ウォォォォ」という野太い歓声が聞こえてきた。駅前でサポーターが騒いでるんだろうか? と思った次の瞬間、目の前に巨大な「黄色い壁」が迫ってきた。
 その壁にはシュタディオンで応援するサポーターの表情や、フラッグなどがびっしりとプリントされていた。いや単に写 真をプリントしているのではなく、よく見ると、精巧にコラージュされた「アート」だと分かる。さっきの「ウォォォォ」という歓声も、この壁から流れていた。試合中に録音した声を、スピーカーで流しているらしい。なので壁の前に立つと、今まさに、自分がヴェストファーレン・シュタディオンのただ中にいるような錯覚に襲われるのだ。

 今回の旅では体験できないと諦めていた「黄色い壁」。それを思いがけず体験できた感動にひたりながら、私はさらに壁に近づいた。すると写 真の上に、様々な言語で「ようこそ」と書かれていることに気づいた。英語の「WElCOME」、ドイツ語の「 WILLKOMMEN」。日本語の「ようこそ」という文字ももあった。
 ドルトムントの街全体が、街を代表する観光名所である「黄色い壁」で、ワールドカップの観光客を歓迎してくれている。ケルン中央駅の天井画も「ワールドカップならでは」の歓迎アートだったが、このドルトムントの「黄色い壁」の方が、「ドルトムントならでは」の個性が際立っていて、より印象深かった。そう、たとえドイツ中がワールドカップに沸き立ち、あちこちで代表ユニをまとったバラックの写 真を目にしようとも、この街はきっぱりと「クラブこそ我が町の誇り」だと宣言しているようで、その潔さに嬉しくなった。

私を迎えてくれた「黄色い壁」の感動を伝えたくて、アップにしてみる。サポーター一人ひとりの表情まではっきり印刷されているのが分かる。
壁の前に設置されたゲストブック。余計な装飾は何もなく、ただでっかいコンクリート壁がどーんとそびえているのが、いかにもドイツらしいと思うのだ。

インターネットの「ゲストブック」が
リアルに出現


 壁の前には「GASTBUCH」と書かれた白い壁が設置されており、既にたくさんの書き込みで埋まっていた。さっそく私もしゃがみこんで、スヌーピーがサッカーボールを蹴っている絵を描いてみた。ちょっと自慢めいてしまうが、私は昔、漫画「ピーナツ」の絵を真似て描きまくった経験から、スヌーピーやチャーリー・ブラウンたちの絵を、何も見ないでも描ける「特技」があるのだ。    
>>続く

線が所々歪んでいるのは、キャンバスが凸 凹してるからである(言い訳)。この壁、WM後もどこかで保存されてたりするのだろうか。