ドルトムント訪問記
・その1 ・その2
・その3 ・その4
   
   
   
   
   
   
   
   




広場でくつろぐサポーター。撮ったときはスウェーデンサポだと思っていたが、よく見るとスウェーデンではなくブラジル代表のユニを着ている? ドイツ人にはセレソン(ブラジル代表)好きが多いと聞いていたが、納得。
こちらはトリニダード・トバゴのサポーター。写 真では分かりづらいが、腰をゆらせて踊ってます。

マルクト広場へ行こう

 ゲストブックの書き込みを終えた私は、ようやく「壁」を離れて街の中心部へ向かった。地図などなくとも、大勢の人が歩いて行く方へとついていくと、数分も経たないうちにアルター・マルクト広場にたどり着く。
 「どんな小さな街にもたいてい、素晴らしいサッカーシュタディオンがある」と先に書いたが、それと同じく、どんな小さな町にも必ず「マルクト広場」があるのもドイツの特徴だろう。マルクト広場を中心に、町が発展している。ドルトムントでもそれは例外ではなく、広場には大勢の人が集まり、広場に面 したビアレストランのテラスでビールジョッキを傾けていた。ドイツではお馴染みの光景だが、それらの人の多くがユニフォームを着ているのが、ワールドカップ開催中ならではだ。今日は特に、数時間後に始まるトリニダード・トバゴ対スウェーデンの試合に合わせ、目に鮮やかなイエローのユニフォームが目立った。スウェーデン代表のユニフォームを着た人々や、応援グッズを身につけた人たちだ。同じイエローでも、ボルシア・ドルトムントのイエローより彩 度が高い。彼らはここで腹ごしらえをした後、Uバーンに乗って「ヴェストファーレン・シュタディオン」に向かうのだろうか。
 もちろん、ワールドカップ初出場となるトリニダード・トバゴ(以下トリトバ)のサポーターもいた。母国からはるばるやってきたのだろうか、赤いユニフォームを着た褐色の男女が数人、ゆったりと身をくねらせてダンスを踊り始めた。音楽に疎い私は、単純に「レゲエのリズムかな」と思ったが、後で調べると、トリトバ発祥の「カリプソ」のリズムらしい。その独特のリズムに身を任せ、気だるげに腰を揺らして踊る彼らがカッコよく、瞬く間に周囲に数人の人垣ができた。写 真を撮っている人もいた。

 それにしてもこのトリトバのサポーターたち、これから初戦を迎えるとは思えないリラックスムードである。相手が強豪スウェーデンだから、ハナから勝てると思ってない故のリラックスムード……な訳ではもちろんなくて、単にそういう国民性なのだろう。だがそんな彼らも、試合後は豹変(笑)。野獣のように激しく踊りまくっていた。その姿もまたカッコいいのである。


イングランド対スウェーデン戦のチケットが余っていないか、スウェーデンサポに交渉しているおじさん。 広場で人々の注目を集めていたリフティングおじさん。

 私のように、どちらの国のサポーターでもなく、ただワールドカップの雰囲気を楽しむためにやってきた人も大勢いた。おや、広場に人だかりができている。行ってみると、ワールドカップのロゴマーク入りシャツを着た半ズボンのおじさんがリフティングをしていた。ボールをぽんぽんと膝や足で蹴り上げ、決して落とさない。周りの見物客から、次々に拍手と歓声が湧く。そのうちの一人が「俺にもやらせてくれよ」と声をかけたらしく、リフティングおじさんが「ぽーん」とボールをその人に蹴ってよこした。そのボールをなんとか膝で受け止め、ぎこちないながらもリフティングを始めるもう一人のおじさん。周囲から拍手と笑い声が起こる。ボールひとつで、見知らぬ 他人同士があっという間に共感し、楽しみを共有しあえる。サッカーっていいなと思える瞬間だが、こうしたシーンが自然に生まれるのも、ここがサッカー大国ドイツで、さらにワールドカップ期間中だからだろう。
 もうすぐ、近く(といっても列車で15分の距離だが)のスタジアムで試合が始まるという、高揚感もあった。なので私も試合が観たければ、早くチケットを購入しなければならない。だがさすがにこの広場では、スタジアム前によくいるような「チケット余ったから売るよ〜」と呼びかけるダフ屋らしき人たちはいなかった。
 チケットを求めている人なら、いた。といってもこの後始まる試合ではなく、別 の試合のチケットである。「イングランド対スウェーデン戦のチケット、2000ユーロで2枚買うよ」とドイツ語で書かれた厚紙を持った小太りのおじさんが、テラスに座っているスウェーデンサポーターに交渉している。
 私もあのおじさんのように行動的になれば、この後始まるトリニダード・トバゴ対スウェーデン戦のチケットを購入できたかもしれない。だがこのとき私は、それほどスタジアムで試合を見たいとは思わなくなっていた。中央駅前にどーんと展開された、あの「黄色い壁」を体験できたことで、なんだかもう満足してしまっていたのだ。「これでドルトムントまで足を運んだ甲斐があった」などと、心地よい達成感すら感じていた。まあ、もともと「チケット買えたらいいな」程度で、あまり期待していなかったというのもあるが。

地元民が集まる店を求めて

 それでも「ダメもと」で、ヴェストファーレン・シュタディオンには行こうと思っていた。だが広場でリフティングをしているおじさんに見とれたり、屋台で「スラッシュ」と呼ばれるジュースを買ったりしているうちに、17時半になってしまった。これでは、今から列車に乗っては18時開始の試合に間に合わない。自分の計画性の無さに呆れつつも、とりあえず何か食べようと、レストランを探すこととにした。昼から何も食べていなかったのだ。それにドルトムントに来たからには、地ビールも飲んでみたい。4つの醸造会社があるドルトムントは、ドイツ最大のビール生産都市なのだ。
 大通りでは、ワールドカップ期間だけの運営であろう、ゴージャスな移動式メリーゴーランドが子どもたちを乗せて回っていた。そんな光景を微笑ましく眺めながら、人込みを避けるようにして大通 りを離れた。勝手な思い込みかもしれないが、経験上、大通りに面した店は「観光客向け」で、あまりひとけのない狭い路地にある店は「地元民が集まる店」という印象がある。そういう店の方が美味しいかどうかはともかく、値段は安いことが多い。
 自分も観光客のくせに、観光客向けの店ではなく、地元民が集まる店に行きたいと願う。そんな勝手な希望そのものが、いかにも「観光客」だなあと自分でも思う。
 さらに希望を言わせてもらえれば、店内にテレビが設置されている店が望ましい。皆で試合を見ながらビール片手に盛り上がっている、その熱気を私も体感したいのだ。なんて観光客的な発想! 全く恥ずかしいほど「お上りさん」丸出しだが、旅先では羞恥心が欠如するのか、それとも開き直るのか。とにかくせっかくドイツに来たんだから、ビアレストランで、ビール片手に試合を見たい。そんな「ドイツならでは」のサッカー観戦をしてみたい。    
>>続く


こちらがスラッシュ。ストローの他にもう一本、 細長いグミみたいな お菓子が刺さっている。もちろん食べられる。
派手な看板が目を引く「スラッシュ」の屋台。

BVBドルトムントの、移動ファンショップを発見。
移動式メリーゴーランドは親子連れに人気だった。