ムーミン経由、ドイツ行き
大聖堂に架かる橋
ニール 
・鐘の鳴る町

・川の流れる町
天国への509階段
・その1 ・その2
ひとつきだけの世界遺産
街で人気のコンディトライを探して
中華飯店で日韓友好?
ショッピングモール・アドベンチャー
・その1
・その2 ・その3
ケルンぶらぶら歩き
・その1 ・その2 ・その3
たった一時間のラインクルーズ




味はどれもハズレなし。ただ炒めものが多く、もうちょっとメニューに幅を持たせて欲しいところ。


 大聖堂を出ると、午後3時を過ぎていた。朝食を食べてから何も口に入れていなかったから、もうお腹はぺこぺこ。とりあえず何か食べなきゃと繁華街を歩いたが、ドイツのレストランは午後3時〜5時の間は「準備中」になることが多く、目ぼしい店が見つからない。もちろんマクドナルドなどのファーストフードは開いているが、せっかくドイツに来たんだもの、ドイツならではの料理が食べたい。
 それに私はドイツ行きにかこつけて、「ドイツのレストランを取材する」という日経レストランの仕事も請け負っていた。どうせなら、その取材もすませられるようなレストランがいい。
 そんな私のわがままな要望に応えてくれたのは、またしてもケルン在住のH氏だった。 「そうだ、あそこに行こう。あそこなら、この時間でも腹いっぱい食べさせてくれるから」
 “腹いっぱい”という言葉に激しくそそられた私は、喜んでH氏の後についていった。

 H氏が連れていってくれたのは、ショッピングモールの2Fにある中華料理店だった。中華というだけで、もう「こってり」というイメージなのに、さらにこの店は食べ放題形式だった。店の名前も「ビュッフェ・チャン(Buffet Chang)」。
 ドイツにも食べ放題の店があるなんて!と私が驚くと、「最近、増えてきた」とH氏は言う。本音はもっと「ドイツならでは」の料理が食べたかった私だが、ドイツの中華バイキングというのも面 白いし、何よりお腹が空いていた。
 前払い制だったので、まずはレジで料金を支払う。5.5ユーロ(日本円で約800円・ドリンク別 )で食べ放題できるんだから、安い。
  皿を持って列に並び、ずらり並んだトレーから好きな料理を皿に取ってテーブルにつく。手順は日本のビュッフェやバイキングと全く一緒だ。メニューも、白菜スープ、野菜炒め、焼きそばなど、日本の中華と変わらない。味も、しっかりダシがきいていてなかなか美味しい。H氏いわく「合成調味料を使わず、また良い油を使っているから、お腹一杯食べても胃がもたれない」そうだ。
  確かに炒め物が多い割には、さっぱりしている。だが食べ進めていくうちに飽きてきて、もう一度料理を皿に盛ってこようという意欲がなくなる。男性は満足かもしれないが、女性からすると、炒め物だけでなく、もうちょっとメニューの幅を広げて欲しい気がする。デザートも一応あるんだけど、「揚げバナナ」とこれまた油もの。「口直しのデザート」になってない。できれば杏仁豆腐とか食べたかったな。と言いつつ、揚げバナナの濃厚な甘さと歯触りが美味しくて、ぺろりと平らげてしまったのだが。

欧米の中華料理店や日本料理店にありがちな、「なんじゃこりゃ」というようなぶっとんだアジア趣味ではなく、ファミリーレストランのような明るい内装。壁面 上部に韓国カラーの瓦が張り付けられているのが、唯一「アジア」を感じさせる。
「ビュッフェ・チャン」のショップカード。


 メニュー構成に若干の不満はあるものの、日本に紹介するのに値する店だと思った私は、食べ終わると、H氏をテーブルに残してレジの前に歩み寄った。レジを担当する中年女性は見た目、アジア人らしかった。私は彼女に用意した名刺を差し出して、「Ich komme aus japan(私は日本から来ました)」と話しかける。すると彼女はたちまち表情を明るくして、「japan?I am South Korean!」と即答した。
 そうなのだ。店名が「ビュッフェ・チャン」なのでてっきり中国人が経営してると思いがちだが、ここを経営しているのは韓国人なのだ。そのことをあらかじめH氏から聞いていた私は、レジの女性が韓国人と知ってもそれほど驚かなかった。それより、私が日本人だと知ったときの、彼女の反応に少し驚いた。一般 的に、韓国人は日本人に敵対感情を抱いていると言われている。もちろん私はそれを額面 通り受け取る気はなかったが、それでも、こんなに嬉しそうな反応をされるとは思わなかったのだ。  私は自分がライターで、ドイツの飲食店を取材しているのだと彼女に伝えた。ぜひこの店を日本に紹介したいので写 真を取らせてほしいと申し出ると、彼女は快く承諾してくれた。

 店内写真を撮るため、店内を俯瞰できる場所に立つと、実に多種多様な人々が食事をしていることに気付いた。一目でそうと分かるトルコ系、アジア系、黒人系の客が多い。かくいう私とH氏は日本人だし、レジの女性は韓国人だ。
 そして私以外には、観光客は一人もいなさそうだった。少し奥まったショッピングモールの2Fにあるため、観光客はめったに来ない店らしい。私も、H氏に連れてこられなかったらまずこの店にたどり着けなかっただろう。
  ということは、ここで食事をしている人は、みな現地に住んでいる人だということか。ドイツは移民の多い国だと聞いてはいたけれど、本当だったんだなあ…と改めて実感する。
 そしてこう言ってはなんだが、彼らは総じて、あまり裕福そうには見えなかった。といっても、見るからに貧しい身なりをしている客はいない。中所得者層が多いといったところか。日本でも、安い値段で食べ放題できる店にブルジョア層が行くことはないだろうから、当たり前といえば当たり前だ。だが日本のバイキング店とちがい、多種多様な人種の客が集まるところが、いかにもドイツといった感じで興味深かった。中華料理そのものは「ドイツならでは」というものではないが、客層は「ドイツならでは」の店に巡り合えたという訳か。 

 私が写真を撮っている間も、レジ係の韓国人女性は私が渡した名刺を手に取り、嬉しそうに眺めていた。この取材が、ドイツ飲食店取材の一件目だったが、私の拙い取材を一番喜んでくれたのはこの店だったなと、後になって分かった。
 ドイツの地で、同じ極東のアジア人と出会えたという親近感が、彼女が私に快く応対してくれた理由だろうか。取材一件目でこのような暖かい対応を受けたことは、今後の取材の励みになった。

Buffet Chang
住所:Breite Str.80-90・50667 koeln
営業時間:平日11:00〜21:00 土・日・祝12:00〜19:00

ボン支店
住所:Friedrichstr.9/Kesselgasse 1・53111 Bonn
営業時間:月〜木11:30〜22:00 金・土11:30〜23:00 日・祝12:00〜21:00

このとき取材した「日経レストラン」の記事

http://nr.nikkeibp.co.jp/topics/20060629/