ムーミン経由、ドイツ行き
大聖堂に架かる橋
ニール 
・鐘の鳴る町

・川の流れる町
天国への509階段
・その1 ・その2
ひとつきだけの世界遺産
街で人気のコンディトライを探して
中華飯店で日韓友好?
ショッピングモール・アドベンチャー
・その1
・その2 ・その3
ケルンぶらぶら歩き
・その1 ・その2 ・その3
たった一時間のラインクルーズ




Cafe Cremer店内。窓際では年配のご婦人客が「ウィンドー・ムービー」を楽しんでいた。


 ケルンで一番美味しいケーキ屋はどこだろう?できれば、ケーキをその場でイートインできるカフェ・コンディトライがいいんだけど。
 私の難しい質問に、ケルン在住のH氏はすんなり答えた。
「だったら、カフェ・クレーマーしかないでしょう」
 大聖堂から歩いて行ける場所にあるというその店に、私はさっそく明日、連れていってもらうことにした。  

 大聖堂から南側は、歩行者天国の繁華街になっており、デパートや小売店、レストランなどがひしめいている。
  「Cafe Cremer(カフェ・クレーマー)」はそんな繁華街の、大勢の人が行き交う交差点の一角にあった。道路側の壁一面 がガラス張りになっており、店内には明るい陽光が差し込んでいる。テラス席もあり、開放的なカフェ・コンディトライだ。
 店に入り、さっそくショーケースの中のケーキをのぞき込む。たちまち、「ウッ」と胸に何かがこみあげるのを感じた。でかい。でかすぎる。予想はしていたものの、その予想を越える重量 感。しかもでかいだけじゃなく、フルーツ(シロップ漬けのゼリー類が多い)がてんこもりになっており、激しく甘ったるそうだ。
 本来なら、甘いもん好きの私は大喜びでそれらのケーキを選別しているはずだった。だがあいにく、私はお腹がいっぱいだった。ここに来る前、「ビュッフェ・チャン」で中華料理をたらふく食べた後だったのだ。
 なのでできれば今日は、これ以上こってりしたものは食べたくなかった。だが「日経レストランの取材」を進めなくてはという使命感にとらわれて、とりあえずH氏このカフェに連れてきてもらった。たとえお腹がいっぱいでも、シフォンケーキンやシュークリームなどの「食後のデザート」的な軽いスイーツなら食べられるだろうと思ったのだ。

 甘かった。ショーケースに並んでいるのは、どれもずっしりと大きいトルテのみ。日本のように、パイあり、シュークリームあり、ムースありとバラエティに富んでいない。
 私は「まずい。食べられそうなものがない」と焦りながらも、とりあえずショーケースの奥にした店員のおじさんに、「Was wollen sie uns empfehlen?(あなたのオススメはなんですか?)」 と訪ねてみた。 おじさんはニッコリ笑って、ベリーたっぷりの生クリームケーキや、チョコレートケーキを指さした。
  ああ、やっぱりそう来たか、と私はますます追いつめられつつ、おじさんのすてきな笑顔にほだされて、「Bitte!」と、おじさんご推薦のシュヴァルツヴァルダー・キルシュトルテを指さした。

「どどーん」という効果 音をつけたくなるくらい、どっしりと大きなケーキがショーケースに並ぶ。ストロベリー、サワーチェリー、ブラックベリーなど、ベリー類のトルテが充実。



 H氏とともにテーブルにつきながら、さっき注文したケーキと、コーヒーが運ばれてくるのを待つ。メニューを取りにきたウェイトレスに写 真撮影の許可を求めると、快くOKをもらった。
 ケーキはすぐにやってきた。ドイツを代表するケーキ、シュヴァルツヴァルダー・キルシュトルテ。お菓子作りの本にはたいてい載っており、私も何度かつくろうと試みたことがあるが、大粒のサワーチェリーと、レシピ通 りのお酒が手に入らないせいか、たいてい普通の生クリームケーキになっしまった。一度、本場のキルシュトルテを食べてみたいと思い続け、それがついにかなった瞬間…のはずだった。
 しかしいざ実物を前にして、私はそのあまりのボリュームに狼狽えていた。日本のケーキの3倍はあろうかという大きさ。それになんなんだ、この生クリームの多さは。スポンジは底の方に薄〜く一枚敷いてあるだけで、後はほとんど生クリームで成り立っているケーキである。恐らく、生クリームの中にゼラチンを混ぜてやふんわり固めているんだろうけど。


大粒のサワーチェリーを、ふんわり軽い生クリームでサンドしたシュヴァルツヴァルダー・キルシュトルテ。
この写真ではその巨大さがあまり伝わらないのが残念です…。

 果たして、全部食べきれるだろうか…と不安にかられつつ、スプーンでクリームをすくって口に入れる。あれ、思ったよりずっと軽くて、ふんわりしている。甘さも控えめで、これならいくらでも食べられそう。
 サワーチェリーも甘さ控えめで、口に入れると程よい酸味とキルシュの香りがほんのり漂う。
 私は調子に乗ってスプーンを口に運びながら、やはりこのケーキは「ドイツを代表するケーキ」だとしみじみ思った。ドイツケーキはフランスケーキのような華麗で小粋な飾り付けはなく、見た目も味も素朴だが、お酒やエッセンスを極力使わず、果 物やクリームの美味しさを最大限に生かしている。シュヴァルツヴァルダー・キルシュトルテには、そんなドイツケーキの魅力が凝縮されていた。
 しかし食べても食べてもケーキが減らず、半分くらい食べたところでついにギブアップ。H氏に食べるのを手伝ってもらうことに。「ドイツは乳製品が美味しいから、当然生クリームも美味しい」と解説しながらケーキを食べ進めるH氏だが、心なしかスプーンの進みが遅い。ようやく二人がかりで食べ終えたとき、私はしばらく生クリームは食べたくないと強く思った。確かにドイツの生クリームは美味しいけど、あまりにも量 が多すぎるんだよー。


 食後のコーヒーを飲みながら、店内を見渡す。全体的に客層は年齢層高めで、特に年配の、上品そうなご婦人の客が多い。彼女たちは窓側の席に座って、コーヒーを飲みながら通 りを行き交う人々を飽きもせずに眺めていた。あのように、窓越しに通 行人を観察することを「ウィンドー・ムービーを楽しむ」とドイツでは言うんだと、H氏が教えてくれた。
 日本のおばあちゃんは縁側に座ってお茶をすするけど、カフェ文化が発達しているドイツのおばあちゃんは、カフェの窓際に座ってコーヒーをすするのが趣味なのかも。いずれにしろ、なんとも優雅でいい老後だなあと、私は彼女たちをうらやましく思った。  

 若者も、観光客もいないせいか、ゆったりと落ち着いた雰囲気なのも気に入った。今度ケルンに行く機会があれば、真っ先に立ち寄りたいカフェである。ただし「食後のデザート」に値するような生易しいケーキは置いていないので、十分にお腹を空かして行かなければ。

Cafe Cremer
住所:Breite Str.54・50667 koeln
営業時間:平日8:30〜19:30 土・日8:30〜19:00

このとき取材した「日経レストラン」の記事

http://nr.nikkeibp.co.jp/topics/20060629/index1.html