ムーミン経由、ドイツ行き
大聖堂に架かる橋
ニール 
・鐘の鳴る町

・川の流れる町
天国への509階段
・その1 ・その2
ひとつきだけの世界遺産
街で人気のコンディトライを探して
中華飯店で日韓友好?
ショッピングモール・アドベンチャー
・その1
・その2 ・その3
ケルンぶらぶら歩き
・その1 ・その2 ・その3
たった一時間のラインクルーズ
   




本屋さん サッカー本が 幅きかせ(俳句風)

 おもちゃ屋で思いのほか時間を取られてしまったため、時計を見るともう昼前になっていた。この後いったん自宅に戻って昼食をとり、日本対オーストラリア戦をPV(パブリック・ビューイング)会場でH氏たちとともに観戦する予定になっている。なのでそろそろ帰らなくてはならないのだが、どうしてももう一件、寄ってみたい店があった。本屋である。
 せめて、サッカー本コーナーだけでもひと目見てから帰りたい…そう思って本屋に立ち寄ったのが、間違いだった。さっきのおもちゃ屋よりさらに広いスペースの本屋は、刺激と発見に満ちていた。まさに時間の経つのも忘れて、本の世界に没頭した。といってもドイツ語は読めないので「立ち読み」ならぬ 「立ち見」だが、本の装丁を見るだけでも新たな発見があった。また陳列の仕方や小道具の使い方など、ディスプレイデザインにもドイツならではの個性があって、面 白さは尽きなかった。
 私はそれらの光景を写真に撮っておきたい衝動に駆られたが、その前に本の購入である。これまでのドイツでの経験から、何も買わずに写 真撮影の許可を得ようとするより、まず何か買ってから、そのすぐ後に写 真撮影の許可を得る方がずっとスムーズにいくことに気付いていたのだ。
 幸い、買いたい本はすでに決まっていた。バラックの伝記である。ドイツ滞在中、どこかで買おうと思っていたから、ちょうどいい。ここで買ってしまおう。
 スポーツコーナーに足を向けると、WM開催中とあって、サッカー関連の本が所狭しと並べられていた。選手や監督の伝記本だけで、一つのコーナーが出来ているほど。本と一緒に、WM公式マスコット「ゴレオ6世」グッズや、CD、サッカーボールキーホルダーなども並んでいる。
 私はバラックの伝記本を手に取ると、それをレジに持っていった。正直、少し恥ずかしかった。たぶん、「ドイツで、日本人がドイツ人選手の本を買う」から恥ずかしいのではない。日本でこの本を買っても、きっと同じように恥ずかしかっただろうと思う。それは本の表紙に原因がある。写 真を見てもらえれば分かるように、表紙はバラックのどアップなのだ。

「Ballack-Sein weg」(訳すと「バラック その道程」)
少年時代のコーチど、バラックを育てた人々が登場し、当時の思い出を語っている。表紙はちょっと恥ずかしいが、内容は真面 目で読みごたえがある。

 しかし撮影の許可を得るためだ。私は恥ずかしさをこらえて、平静を装いながらレジにその本を差し出した。レジにいたのは初老の女性だったが、ごく事務的にその本を会計してくれた。値段は16.95ユーロ(約2550円)。
 この本屋だけかもしれないが、ハードカバーの本を買っても、カバーなんかしてくれないし、袋にも入れてくれない。レシートと一緒に本をそのまま返されるだけである。スーパーなどでは当たり前の風景だが、本屋でもそうなのか、と私は少し感心した。
 本の 精算を済ませた直後、私は今がチャンスとばかりに、もうすっかり暗記してしまったドイツ語で女性店員に話しかけた。
「Darf ich Fotografieren?(写真撮ってもいいですか?)」
 店員はいったんレジを離れ、他の場所にいた上司に確認を取りに行った。ほどなくして戻ってきた彼女は、笑顔で「いいですよ」と言ってくれた。
 私は喜び勇んで、再びサッカー本コーナーへと戻り、カメラをかまえた。一番目立つところに陳列されているバラックの伝記を始め、カーン、ポドルスキーなどの選手の伝記から、ベッケンバウアー、ペレ、クリンスマンなど、往年の名選手の伝記が並ぶ。―――と、いちいち文章で説明するより、写 真を見てもらった方が早いだろう。という訳で、ここから先は写真と、それに付随するキャプションだけでこの本屋を紹介していきたい。

とにかく広い店内は、スポーツコーナーだけで陳列台がいくつもある。
こちらは、サッカーの伝記本コーナー。ネッツァーやベッケンバウアーなどの「大物」はもちろん、若干20歳のポドルスキーの本まであったのにはびっくり。すでにドイツではスーパースターという訳か。
ユニークなところでは、コッリーナ審判の本もあった。


こちらは、子ども向けのサッカー本コーナー。バラックが表紙になっている教則本の「君もバラックになれる」というキャッチコピーがまぶしい。
よく見ると、サッカーのピッチに模した緑のシーツが台に敷かれている。

「ドイツのいたるところで見かける」といえばバラックもたいがいのものだったが、このゴレオ6世もあちこちで見かけた。


日本の書店と同じく、スペースの端には文房具コーナーも設けられていた。ここでも、サッカー選手のバインダーやノート、筆記具などが幅をきかせていた。
にしても、アディダスと契約しているドイツ選手は4人なのに、バラックとクラニーのグッズしか残っていない。陳列台のスペースが妙に余っている ことからして、ポルディとシュヴァイニのグッズは売り切れたのか?
上で踊っているのは、シュヴァイニの万年筆の広告POP。他にもドイツではシュヴァイニが起用されている広告をよく目にした。広告スターとしても人気上昇中らしい。

まだ6月なのに、もう来年のカレンダーが売られていた。しかもすべてサッカーカレンダー。
…もしかして、ドイツがWMで惨敗しそうなんで、WMが始まる前に売り切ってしまおうという魂胆か?
右上のバラックのカレンダーなんか、2007年までまだ半年もあるのに、もう15ユーロに値下げされて、叩き売り状態になってるし。
ちなみに店員さんに「一番売れてるカレンダーは?」と訪ねると、「一番売れてないのはWorld Stars」という答えが。
そうか、ポドルスキーとドログバが 表紙のアレか…。

店員さんが「一番売れてる」と言うミニカレンダー。左端の「History」は、ご覧の通 りドイツ歴代の名選手たちが表紙。なかでも、やはりベッケンバウアーは別 格扱いなのだと分かる。
次に人気があるのはクリンスマンとマテウスか。日本人には馴染み深いリトバルスキーの人気は、ドイツではどうなんだろう?


「子ども向けの本」コーナー。絵本などを座って読めるクッションベンチが置いてあるのは日本の書店と同じだが、汽車の乗り物まで置いてあるのには驚いた。親が本を選んでいる間、子どもが退屈せず遊べるよう、キッズスペースも兼ねているらしい。


ドイツの本屋は、ディスプレイが派手。写真は、料理のレシピ本コーナー。「グリル料理」の本とともに、実際にグリルに使う網焼き器や、リアルなステーキのオブジェをディスプレイしている。
他にも、フラワーアレンジメントの本コーナーでは造花を飾ったりと、本の内容をそのままディスプレイに反映させる手法は、日本の本屋ではあまり見かけないものだと思う。


こちはケーキ本コーナー。なんと、本とケーキ型(直径18センチくらい?)がセットで売られていた。
ケーキ型が本の「付録」なのか、それとも本がケーキ型の「付録」なのか?どちらにしろ、「ケーキ作りは初めて」という初心者には嬉しいセットだ。


料理本コーナーにも、サッカー関連の本を発見。鮮やかな赤いカバーの「FCバイエルン・クックブック」 がすぐ目に飛び込んできたが、ふと隣を見ると…フリードリッヒじゃないか。しかもただ表紙に写 真が載っているだけでなく、本の監修にも名を連ねている。もしかして、ドイツではフリードリッヒは「料理の達人」として有名なのだろうか?

「FCバイエルン・クックブック」の1ページ目。「愛するバイエルンファンへ!」と題した挨拶文が書かれているが、ドイツ語が読めない私でも、この本がバイエルンファン対象の本ということは一目瞭然。(というか、それ以外の人はまず買わないだろう)
表紙にも登場している選手たち(左からピサロ、シュヴァインシュタイガー、バラック、マカーイ)は、隣の本のフリードリッヒとは違い、単に顔を貸しているだけ。作っているのは真ん中の、白いコック服を着たおじさんであることも、一目瞭然。


レジ近くの棚では、漢字のペンダントが売られていた。欧米人は「漢字」にエキゾチックな魅力を感じるのだろうか。
私の名前「羊」もあったので、一瞬「買おうかな」と思ったが、よく考えるとドイツではこういうのをつけて街を歩いても「オシャレ」と見られるかもしれないが、日本では「……」となる可能性大なので、やめておいた。縁日の夜店などで売られている、安っぽいペンダントに見えなくもないし。



 「時を忘れて」という言葉があるが、本屋をうろうろしている時の私は本当に時を忘れていた。はっと気付いて時計を見たら、もう午後1時。やばい。午後から日本対オーストラリア戦をPV会場で見る約束をしているのに、これでは間に合わない。
 まだまだ見たい店はたくさんあったが、後ろ髪を引かれる思いでショッピングモールを後にすることに。だが一階に降りたものの、どこに出口があるか分からない。焦る私の前を、犬を連れたご婦人がゆっくりと通 り過ぎていった。 それも大型犬である。その瞬間、私の脳内をポール・サイモンの隠れた名曲「犬を連れたルネとジョルジェット」が駆け巡った。さっきまでの焦る気持ちがすーっと消えて、妙に微笑ましい気持ちになって、遠ざかっていく犬と、その飼い主を見送った。
  ドイツでは本当にあちこちで大型犬を見かけるが、ショッピングモールの中にも 犬がいたとは。だがさすがに生鮮食料品売り場には入れてもらえないらしく、店の前で飼い主を待っている犬もいる。待っている間もキャンキャン吠えたりすることなく、じっと身を伏せて、実に行儀が良い。きちんとしつけられているからこそ、モールや、地下鉄の中にまで、犬の「居場所」があるのだろう。

生鮮食料品を売るスーパーの前で、おとなしく飼い主を待っている犬。
外見も、中の構造も日本のされとほとんど変わらないドイツのショッピングモールだが、最大の違いは「犬が中に入れること」ではないだろうか。