今、ドイツで一番人気の選手は誰？

ベルリンのカイザー・ヴィルヘルム記念教会周辺の路上で、アマチュア絵描きが有名人の似顔絵を並べて売っていた。バラックの似顔絵もあった。

　「ドイツを歩けばバラックに当たる」と言わんばかりのバラック洪水状態に喜んでいた私だが、そのうち、一つの疑問にぶち当たった。 　
―――マスコミはやたらとバラックを持ち上げているけど、ドイツ大衆での人気は、実際どうなん？
　こんなに街中にバラックの広告があふれて、雑誌の表紙もバラックばかりだと、うんざりしている人もいるんじゃないだろうか。私のような旅行客で、しかもバラックのファンなら嬉しいけれど、ずっと住んでいる人だと、「またバラックか。もう見飽きたよ。もっと他の選手も取り上げろよ」と苦々しく思うのではないだろうか、と。
　もちろん、大衆に人気があるから、マスコミもバラックを持ち上げるのだと分かってはいる。だがそれがあまりにも度を過ぎると、かえって逆効果 になるのはよく聞く話だ。現時点でドイツで最も人気のある選手は、実はバラックではないのではないだろうか？どの雑誌も「バラックはドイツのシンボル。人気も実力もナンバーワン」という論調ばかりだが、そうやって称賛されればされるほど、「本当に？」と疑ってかかってしまう。マスコミの声よりも、一般 大衆の生の声を聞いてみたい。本当にバラックが人気ナンバーワンなのか。もっと他の選手―――たとえば、躍進めざましい若手たちの方が人気があるんじゃないだろうか。
「Who is the most popular hootball player in deutschland now?（ドイツで今、もっとも人気のある選手は誰？）」
　私はこの言葉をメモ帳に書きとめ、いつでも口に出せるよう、暗記した。

　暗記した質問を最初にする機会は、ベルリンで訪れた。ツォー駅構内の書店で、バラックが表紙のサッカー雑誌を購入したときのこと。レジで清算を済ませて、店員から本を受け取る際、「私は日本から来たんですが、今、もっとも人気のある選手は誰なんですか？」と聞いてみた。
　ぎこちない英語だったが、店員が若い女性で英語にも堪能だったのが幸いした。彼女はすかさず「バラックよ」と答えてくれた。そのすぐ後に、背後にいた別 の店員（若い男性）に「そうでしょ？」というように確認する。するとその男性は「いや、ポドルスキーさ」と答えたのだ。同じ書店に働く同僚でも、見解の相違があるのが面 白かった。やはり、バラックが断トツ人気ナンバーワンという訳ではなかったのだ。
　私は「我が意を得たり」という気になって、その後も機会を見つけては、同じ質問をドイツ人に投げかけてみた。だが結果 は、やや予想外れに終わった。イタリア料理店で遭遇したサポーター（シュヴァインシュタイガーのユニフォームを着ていた）も、PV会場のビール屋台の売り子も、コブレンツ駅構内の書店店員も、答えは判で押したように「バラック」だった。本当は喜ぶべきことなのに、あまりにも答えがワンパターンなので、だんだんつまらなくなってきた。そして、今度は「ほんとに？私が日本人だからって、適当にステレオタイプな答えを返してるんじゃないの？」などとひねくれた見方をしてしまうのだから、いったいどこまで疑り深いんだか。
　ドイツで一番人気のある選手はバラック。少なくとも2006年6月の時点では、それは疑いようのない事実だったようだ。 　　>>続く

1 フランクフルトの中心地、高級ブランド店が並ぶショッピングストリート「ゲーテ通 り（goethestrasse）」を歩いていたら、ブティックのショウウィンドウでバラックに遭遇した。ちらっと中も覗いてみたが、いかにも高そうなブティックだった。　 2 デュッセルドルフの街路に立つ、コカ・コーラの広告。ドイツのスーパーに行くと、代表選手たちがプリントされたコカ・コーラの缶 を良く見かける。バラックの他にもフリンクス、シュヴァインシュタイガーらの缶 があった。　 3 ケルンの繁華街で見つけた、デジタル製品店の壁面 広告。デジタルカメラの広告らしい。使われている写真は、2005年12月のドイツ対フランスの試合と思われる。　 4 ドイツの電話会社「T-com」の広告。シッョピングモールで発見した。T-comはバイエルン・ミュンヘンのスポンサーとしてもお馴染みで、このとき､まだバラックはバイエルンの所属選手だった。　 5 ベルリンの雑貨屋で見つけた操り（？）人形。下のヒモを引っ張ると手足が動く仕組み。バラックは脱いだスパイクを両手に持った靴下姿。個人的に「欲しいな」と思ったのはレッドカードを振りかざすコッリーナ審判。