バラックのいる風景
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番外コラム

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2011-2012
チャンピオンズリーグ観戦記





「バラックが帰ってくる

フランクフルトがホームタウンのクラブ「アイントラハト・フランクフルト」のファンショップでは、同クラブのユニフォームだけでなく、代表のユニフォームも揃っている。店員に「どのユニフォームが一番売れてるの?」と聞くと、「ホワイト・バラック!」という答が返ってきた。つまり、バラックの代表ユニの白バージョンということ。
 
 

 バラックが、ドイツでは特別な存在であることをあらゆる場面で確認できたW杯旅行も、いよいよ終わりに近づいていた。
 バラックの伝記も買ったし、彼が表紙のサッカー雑誌もたくさん買った。一つ心残りがあるとすれば、それは「試合を生で観れなかったこと」だが、こればっかりは、チケット入手が困難なので仕方ない。ドイツに行く前は「行ってしまえば、なんとかなるさ」と思っていたが、やはりそれほど甘くはなかったのだ。
 その代わり、ドイツ最大規模であるブランデンブルグ門前のPV会場で、大勢のサポーターとともに開幕戦を観ることができた。もちろん、スタジアムで試合を見る興奮には遠く及ばないだろうけど、「ドイツでサッカー観戦」の雰囲気だけでも味わえた。会場に集まったサポーターのユニフォームを見て、今、ドイツで人気の選手は誰なのかをだいたい把握することができたし。
 といっても一番多いのは、背番号なしのユニフォームを着ている人なのだが。日本と違い、ドイツではユニフォームに好きな選手の背番号やネームをマーキングする習慣があまりないらしい。だが数は少ないながらも、背番号入りのユニフォームを着ている人も半数くらいおり、中でも多いのが13・Ballack、20 ・Podolski、7・Schweinsteigerだった。

ふらりと入ったカフェで見つけた、フランクフルター・アルゲマイネ紙
※クリックすると拡大。


 スタジアムでのサッカー観戦は、次のドイツ旅行までのお楽しみに取っておこう。そう自分に言い聞かせ、慰めていた私だが、いよいよ帰国の日が明日に迫った6月13日。ドイツ中が、明日行われるドイツ対ポーランド戦の話題で盛り上がっているのを見て、「なんとかもう一日、帰国日を伸ばせないものか…」と旅行会社に懇願したい気持ちになった。というのも、私が帰国するのは14日の朝。ドイツ対ポーランド戦はその夜、私が機中の人となっている時間に行われるのだ。
 仕事があるため、どうしても14日に帰らなくてはならない自分が恨めしかった。旅行の日程を組んだときは、「仕事もあるし、ドイツの試合は開幕戦だけ現地で見られればいいや」と思っていた。だがその開幕戦に、バラックが欠場したのが計算外だった。そしてポーランド戦が近づくにつれ、ドイツ中が「クローゼ、ポドルスキーの両エースが、自分の故郷と対戦する」この試合を特別 なものとして捉えていることに気づき、「しまった」と思った。もっと前にそのことに気づいていたら、14日の深夜、ドイツを発つ日程にすることもできたのに。
 だが、今さら悔やんでももう遅い。14日の朝、デュッセルドルフ空港に着いた私は、空港内の書店で新聞をいくつか購入した。どの新聞も、今夜のポーランド戦の話題を一面 に持ってきている。今日の試合からいよいよバラックが復帰するとあって、「闘将バラックが帰ってくる」という見出しで、バラックの写 真を一面に大きく載せている新聞もあった。それを見たとたん、なんともやり切れない気持ちになった。ようやくバラックが帰ってくるのと同時に、私は日本に帰らなくてはならないとは。
 だが結局、その新聞を買った私は、それを読みながらカフェテリアでカプチーノを飲んだ。店内のテレビは朝のニュースを放映していたが、そこでも話題はポーランド戦のことだ。両チームの練習風景が流れ、リポーターが興奮気味に試合予想を語っている。「後ろ髪を引かれる」とは、まさにこのことだ。もう空港に来て、搭乗手続きをすませたにもかかわらず、このままドイツに残りたい気持ちでいっぱいになる。せめてあともう一日、ここにいたい。ポーランド戦を現地で、サポーターと共にリアルタイムで観たい。
 だが悔やんでいる間も刻々と時は過ぎ、スーツケースを引きながらとぼとぼと搭乗ゲートへ。途中で通 りがかった空港内のスポーツショップに、バラックの布製ポスターが掲げられていた。アディダスの「IMPOSSIBLE IS NOTHING」のポスターで、ドイツ旅行中にあちこちで見かけ、いい加減見飽きていた広告である。だがこの時は、ドイツを離れる間際に思いがけずバラックと会えたことに、感謝したい気持ちになった。
 そしてそれが、私がドイツで見た最後の「バラックのいる風景」だった。

>>文章はこれで終わり。写 真ギャラリーだけ続く

ドイツを発つ日の朝、デュッセルドルフ空港の書店で購入したRHEINISCHE POST紙(6月14日付)。一面に「闘将バラックが帰ってくる」の見出しと、雄たけびをあげるバラックの写 真が。 その横は、同じRHEINISCHE POST紙のスポーツ面。「ポーランドFW対ポーランド」という見出しで、ルーツであるポーランド戦を今夜に控えた、クローゼとポドルスキーを取り上げている。 ※クローゼとポドルスキーは、ともにポーランド系ドイツ人。

 

1 フランクフルトにあるスポーツショップの、スパイクコーナー。バラックがWMで履いていた金色のアディダススパイクが並ぶ。壁にはバラックとラウールのポスターが。  2ベルリンの繁華街にあるアディダス専門店のショウウィンドウ。ワールドカップトロフィーを見つめる世界のスター選手たち。ドイツからはバラック、カーン、シュヴァインシュタイガー、ポドルスキーが出演。  3 高原が所属している「アイントラハト・フランクフルト」のファンショップの一角に、EURO2004のときのアディダスのポスターが貼られていた。バラックとカーンがバイクに乗ってリスボンを目指す、あのCMが思いだされる。  4 ケルンの繁華街にある大型スポーツショップの看板。ホーム用の白ではなく、赤い代表ユニを着たバラックが広告に使われているのは、けっこう珍しいかもしれない。