ベルリンに行こう
開幕前夜
・その1 ・その2
今日、ドイツの街で
・その1 ・その2
・その3 ・その4
クラクション・ストリート
・その1 ・その2
   
   
   
   
   





「まさか」のゴールで始まった

  長大な「6月17日通り」も、そろそろ終点に近づいてきた。スクリーンの向こうから、ひときわ大きな歓声が聞こえてくる。ふとスクリーンを見上げると、ちょうどペレが、WMトロフィーを高々と掲げてピッチに入場してくるシーンだった。開会式も、いよいよクライマックスに近づいているようだ。胸の高鳴りを覚えながらスクリーンの下をくぐると、あっけないほどあっさりと、ブランデンブルグ門が目の前に現れた。
 いや正確には、門のすぐ前に大スクリーンが設置されているため、門の上の部分――――4頭建ての馬車を操る勝利の女神像しか見えなかった。そのせいで、まるで女神像が、スクリーンの装飾のように見える。ブランデンブルグ門のPV会場の設計者は、こうなることを計算づくで、この位 置にスクリーンを設置したのだろうか?だとしたら、「さすが」の空間設計だと思う。まるで勝利の女神が、これから始まるドイツ代表の試合を見守っているようで、始まる前から勝利を確信するような視覚効果 がある。
 そうこうしているうちに開会式が終わり、スクリーン前に設置された舞台にDJが登場して、マイク片手にサポーターたちを煽り始めた。もちろん、私には何を言っているのか分からない。だがしきりと「ベルリン!ベルリン!」と叫んでいることからして、「ドイツ代表が、決勝の地であるこのベルリンに来れるよう、応援しよう」と呼びかけているようだ。サポーターも大歓声でそれに応える。ほどなく、「フィナーレ、ベルリン」のBGMが流れ、スクリーンに映し出された歌詞に合わせて大合唱が始まった。私も背の高いドイツ人に回りを囲まれながら、懸命に背を伸ばして歌詞を見ながら一緒に歌った。歌いながら、この瞬間から、いよいよ私のドイツ旅行のクライマックスが始まるんだという実感が湧いてきた。

Berlin, Berlin, wir fahren nach Berlin!!!
Berlin, Berlin, wir fahren nach Berlin!!!
Berlin, Berlin, wir fahren nach Berlin!!!
Berlin, Berlin, wir fahren nach Berlin!!!

Boa ihr macht heut abend die Pizzalieferranten platt!!!

Finale Oho, Finale Ohohoho!!!

Ihr schafft das auf jeden fall!!!
Die Italiener haben angst vor euch... Ich dr歡ke euch ganz fest die Daumen!!!

Finale oho, Finale Ohohoho!!!

Berlin, Berlin, wir fahren nach Berlin!!!
Berlin, Berlin, wir fahren nach Berlin!!!
Berlin, Berlin, wir fahren nach Berlin!!!

 サポーターの思いをこめた歌声が、ベルリンの青空に響き渡る。歌が終わるとすぐ、スクリーンにはミュンヘンのアリアンツ・アレーナの模様が映し出された。もう開会式は終わったらしく、ピッチには誰もいない。静かに開幕戦が始まるのを待っている。


「勝利の女神」が見守るPV会場(FAN FEST BERLIN)。大スクリーンにちょうど国旗を振る自分たちの姿が映されているとあって、サポーターの盛り上がりもさらにヒートアップ。


 舞台は整った。次は、いよいよ選手たちの入場を待つばかりだ。 果たして入場してくるドイツ代表イレブンの先頭に、バラックの姿はあるのだろうか。どきどきしながら待っていると、いきなりスクリーンに、控室の階段を駆け降りるバラックの姿が映し出され、サポーターからいっせいに歓声が上がった。バラックの着ているシャツがユニフォームに似たデザインだったので、私も一瞬「あれ、もしかして試合出れるん?」と舞い上がったが、すぐにそれはぬ か喜びだと分かった。階段を降りたバラックが、そのままベンチに座るシーンが映る。そして次の瞬間、通 路に整列して入場を待つドイツイレブンたちが映し出された。先頭に立っているのはシュナイダー。バラックの代役として、左腕にキャプテンマークを巻いている。
 さっきよりさらに大きな拍手と歓声が起こる中、両国の選手たちがピッチへと入場してきた。国旗の前で整列した後、まずはコスタリカの国家が演奏される。続いて、ドイツ国家の前奏が流れる。驚いたことに、選手たちは互いに肩を組みながら、国家の斉唱を始めた。カメラがベンチを写 すと、ベンチ前でも、クリンスマン監督やレーヴコーチ、控え選手たちが肩を組んで歌っている。列の端には、カーンやバラックの姿もあった。
 肩を組んで国家斉唱するなんて、こんなシーンは今までのドイツ代表では見られなかったものだ。あまり、そういった「団結心」を表面 に出さないのが、ドイツの伝統だと思っていたのだが。だがそういった伝統をかなぐり捨ててWMに挑むあたりが、監督就任以来、数々の常識を打ち破ったチーム作りをしてきたクリンスマンらしかった。(後から知った話によると、「肩を組んで国家を歌おう」と提案したのはメッツェルダーらしい)
 周囲のサポーターたちも、選手とともに国家を大合唱する。前の方では、盛んにドイツ国旗が振られている。その光景を撮ろうと、デジカメをかまえた手を懸命に前に伸ばす人も多い。
 私はといえば、バラックが欠場したことにいささかがっくりきていた。だが試合が始まって間も無い前半6分、目の覚めるようなロングシュートがコスタリカのゴール隅に突き刺さる。その途端、「え〜、バラック出ないの〜?」という不貞腐れた気持ちは吹っ飛んでしまった。
「え…なに?今の。誰?誰が決めたん?」と、狂喜乱舞している周囲のサポーターを見回す。スクリーンにゴールシーンのリプレイが流れて、ようやくさっきのミドルはラームが放ったものだと分かり、驚嘆した。まさか!本当にラーム?ドイツの選手は基本的にみなミドルシュートが上手いけれど、それでもWM第一号ゴールがラームというのは、意外だった。と言うとラームに失礼だが、たぶん開幕ゴールはFWのクローゼかポドルスキー、もしくは最近好調のシュヴァインシュタイガーが決めるのではと思っていたのだ。
 まさかラームが、WM第一号のゴールを決めるとは。しかも、彼がこれまで一度も見せたことがないような鮮やかなミドルシュートが、この大舞台で決まるとは。なんだか今大会のドイツは、意外な驚きのつまった、ワクワクする戦いを見せてくれそうだ。そんな予感を感じさせる、ラームの先制ゴールだった。
 またゴール直後、ラームがピッチにいるチームメイトたちの追撃を振り切って一目散にベンチに駆けてゆき、首脳陣や控え選手と抱擁するシーンも心に残った。ゴールが決まった瞬間、バラックとクリンスマンがどちらからともなく抱きあうシーンも、カメラはリプレイで映し出した。バラックの開幕戦出場を巡っての対立が噂になっていた二人だけに、その抱擁シーンは新鮮な驚きと感動を呼び起こした。ゴールの喜びを真っ先に首脳陣たちと分かち合おうと、一目散にベンチに走っていくラームの姿と合わせて、(今大会のドイツ代表は、選手と首脳陣が一丸となっている)ことをサポーターたちに印象づけた。

 開始直後に先制したドイツは、そのまま波に乗るかと思われた。だがラームのゴールから6分後、あっけなくコスタリカ選手にゴールを割られる。1対1とたちまち同店に追いつかれて、「やっぱり守備はザルのままか〜」とでも言いたげな、げんなりした表情で首を振るドイツサポーターたち。つい一週間ほど前、日本にいいように攻撃されて2失点した親善試合から、何も向上していないのか?大丈夫かドイツ?といった不安げな雰囲気が周囲に広がる。
  サポーターといっても、始終応援している訳ではなく、ゴール前に迫るシーンでは歓声を上げるけど、それ以外は真剣な表情でスクリーンを見つめていることが多い。そこはやはり、スタジアムで試合を見るのと、PV会場で見ることとの違いだろうか。
 だがそんな不安げな雰囲気を、一瞬で吹き飛ばしてくれたのがクローゼだった。同店にされてからわずか5分後の前半17分、さっきのラームのような豪快なミドルではないが、ベテランらしい「技あり」のゴールで2対1と勝ち越した。再び、歓喜に沸き返るサポーターたち。それにしても小刻みに点が入りすぎる。前半6分、12分、17分と、試合開始から約5分間隔で得点していることになる。このペースだと、次の得点は22分あたりかと思ったが、さすがにそれはなく、そのまま2-1とドイツ1点リードで前半を終わった。   >>続く


翌日、ほとんどの新聞がラームの先制ゴールと、ゴール直後にチームメイトに祝福されるシーンを一面 に大きく掲載した。ドイツのメディアにとっても「WM第一号ゴールがラーム」というのは驚きと、また若手の躍進が目覚ましい代表チームを象徴するゴールとして、歓喜を持って迎えられたようだ。(下はBild紙。)