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左:映画「ベルリン・天使の詩」にも登場したジーゲスゾイレ(戦勝記念塔)。足元でひるがえっているのはワールドカップの黄色い旗。右:ブランデンブルグ門前のPV会場。試合前のドイツ国歌斉唱時には盛んに国旗がふられ、歌声がこだました。その光景をデジカメで撮ろうと背伸びする若者。 |
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昨夜購入したBild紙(6月8日付)の「クリンシ&バラック・新しいコンビはタイトルを目指す」と題した記事。過去のWM優勝を経験した監督とキャプテンのコンビ(ベッケンバウアーとマテウスなど)を紹介すると共に、クリンスマンとバラックの強い絆を取り上げている。だがその夜、開幕戦出場を巡っての二人の対立がいっせいにマスコミに報道されたのは皮肉。 |
朝食をたらふく食べて体力回復した私は、チェックアウトをすませ、ペンションを出た。気のせいかもしれないが、普段とは違う、ワクワクした空気が、ベルリンの街全体に流れているような気がした。ルフトハンザのロゴが目をひくガラス張りのビルの前の広場では、巨大なサッカーボール型のテレビが置いてあり、周囲にはサッカー選手たちの顔がプリントされた旗がたなびいている。テレビの前では男性がマイクを持って何やらアナウンスしており、ちようどその前を通
りかかった私にもその声が聞こえてきた。もちろん、私には話している内容までは聞き取れない。だがMichael
Ballackという単語が出てきたことからみて、恐らく「今日の試合、バラックは欠場するが勝てるはず」という内容だろう。
そうなのだ。昨夜のテレビニュースでも流れていたが、足の怪我の回復が思わしくないバラックは、今日の開幕戦の欠場が濃厚らしいのだ。
Mommsstr沿いにある新聞スタンドを通ると、「バラック対クリンスマン」という大見出しとともに、不服そうなバラックの顔が大きく新聞の表紙を飾っていた。今朝だけではない。ここ数日、ドイツ中が「バラックは開幕戦に間に合うのか?」ということを心配している雰囲気だった。
もっとも、開幕戦の相手がコスタリカということで、バラック抜きでもまあ勝てるだろう、という楽観的な雰囲気も一部にあることは事実だった。昨夜のテレビ(ZDF)の、有名人が数人集まっての討論番組でも、バラック不在を懸念しつつも、「でもポルディとシュヴァイニがいれば大丈夫だろう」と笑顔で語り合っていた。とにかく頻繁に「ポルディ&シュヴァイニ」という単語が参加者の口から出てくる。いつも二人セットで出てくることがおかしくて、私は心の中で「君らはドイツのおすぎとピーコか」と突っ込まずにはいられなかった。
開幕前夜のテレビでもそんな感じだったので、一般大衆も、今日のドイツの勝利をそれほど不安視していないようだった。むしろ開幕戦に勝てるかどうかよりも、バラックとクリンスマン監督が対立しているらしいことを、ファンやマスコミは心配しているようだった。
ドイツで開催されるWMの開幕戦に、ドイツのキャプテンが欠場していいのだろうか、という対面
的な問題もあったらしい。
私はといえば、もちろんバラックには出場してもらいたかった。詳しいことは「バラックのいる風景」に書いたが、彼のファンだからこそ、バラックがドイツサッカーの「主役」として迎えるだろう最後のWMは、現地で体感したいと思い、ドイツまで来たと言っても過言ではない。そしてその思いは、これまでの旅の途中で既にほとんどかなえられていた。本当に、ドイツ中にバラックのポスターや看板があふれていた。私に宿を提供してくれたケルン在住のH氏の言う「バラックはドイツの国民的英雄」という言葉も、あながち間違ってはいないと思えるほどに。
だがやはり、試合で、プレーしているバラックが見たい。彼はモデルでも芸能人でもない、サッカー選手なのだから。
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ルフトハンザ航空が入っているビルの前の広場にも、チームガイスト(WMの公式サッカーボール)を模したスクリーンが設置され、試合中継に備えていた。
アディダスが提供する会場らしく、周辺には同社CMに登場する選手たちの旗がずらりと並ぶ。
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中央駅を出ると、サポーターの姿はさらに多くなった。ここからどうやってブランデンブルグ門まで行けばいいのか分からない私だが、サポーターの後についていけば間違いないだろう。黒・赤・金のドイツカラーをまとったサポーターたちは、「ドイチュラ〜ント、ドイチュラ〜ント」と歌いながら徒党を組んで大きな通
りを歩いていく。歌の合間に、小さなラッパのようなものをブッブーと吹き鳴らす。正直言って、あまりノリのいい応援とはいえない。スタジアムで聞くような大人数の応援ではなく、2〜5人の少人数だから迫力がないのは仕方ない。だが同じ少人数でも、ブラジルやアルゼンチンのサポーターなら、もっとノリのいい応援ができるだろう。ラテン系ではないドイツ人は少人数だとそれほどノレないのか、ただ「ドイチュラ〜ン!ドイチュラ〜ン!」と繰り返すだけ。歌もほとんど歌わない。ドイツ人の応援といえば、真っ先に浮かぶのがあの歌声、スタジアムの屋根を揺るがさんばかりの大合唱なのだが、それは大人数だからできることで、少人数だと気恥ずかしくてあまり歌わないものなのかもしれない。
一人一人はあまり上手ではないけれど、全員がまとまると素晴らしい力を発揮するところは、ドイツ代表にも通
じるところがある。応援もサッカーも、ドイツは組織力で勝負なのだ。
そんなことを思いながら、サポーターの後をついて広い通りを歩いていく。シュプレー川を越えると、両隣に立派な建物が次々に現れてくる。後から調べたところによると、それらは首相府(bundeskanzleramt)であったり、ドイツ連邦議会議事堂であったりした。どうやらこのあたりは、ドイツにおける永田町のようなところらしい。政府の重要機関が集まっている。
連邦議会議事堂の向かいには、「adidas world of football」という看板をかかげた、円形型の建物があった。おそらくサッカー場らしいその建物の壁には、アディダスのキャンペーン「IMPOSSIBLE
IS NOTHING」に参加しているサッカー選手たちの写真がずらりと掲げられており、サポーターや観光客の目線を集めていた。私もふらふらと中に吸い寄せられそうになったが、どうやら入場料がいるらしい。するとたちまち、興味が失せていく私。お金払ってまで、アディダスの広告を見たいと思わない。普通
に街を歩いていても、そこかしこでアディダスの「IMPOSSIBLE IS NOTHING」の看板に出くわすのに。
連邦議会議事堂の大階段に座って小休憩した後、再び広い通りを歩いていく。通
りの両わきに、次々に重厚な宮殿風の建物が現れてくる。ペルガモン博物館、ドイツ歴史博物館、ベルリン大聖堂、マリエン教会…。長い歴史を生き抜いてきた建物は、今日がWM開幕であることなどどこ吹く風といった感じで、悠然とたたずんでいた。それらの建物に目を奪われているうちに、いつしか「後を追っていた」はずのサポーター集団からはぐれてしまい、周りはラフな格好をした観光客ばかりになっていた。
――――しまった。サポーター集団の後をついていけば、ブランデンブルグ門にたどりつけると思ったのに。しばし路頭に迷っている私の目の前に、まるで救世主のように、巨大なピンクのサッカーボールが飛び込んできた。感じで、悠然とたたずんでいた。私もついサッカーのことなど忘れていると、いきなりピンクのサッカーボールが視界に飛び込んできた。見上げると、テレビ塔の展望フロアが、サッカーボールで覆われているのだ。ベルリンの観光名所の一つであるテレビ塔まで、WMのオブジェにしてしまうとは。さすがサッカー大国ドイツである。
テレビ塔のすぐ向こうは、アレキサンダー広場駅だった。中央駅からここまで、一駅分歩いたことになる。しかし私が行きたいのはブランデンブルグ門なのだ。どうやらまた道に迷ったらしい。ここで引き返すとまた迷いそうな気がしたので、ひとまずレキサンダー広場駅からSバーンに乗って、「Savignyplatz」駅へと向かう。「迷ったら、まず電車に乗るべし」は、私がドイツ旅行中に得た教訓なのだ。
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左上: ベルリン大聖堂と、その横のテレビ塔。塔の展望ホールの部分がすっぽりとピンクのサッカーボールに覆われているのが、分かるだろうか。
右上: ドイツ連邦議会議事堂。大階段ではたくさんの人が座って休憩していた。
左: その連邦議会議事堂の向かいにある、「adidas world of football」館。興味をそそられて中をのぞき込むものの、入場が有料だと知ってそのまま歩きすぎるサポーター多数。私もその一人。
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Sバーン「Savignyplatz」駅出口からすぐの場所にある、「
12 Aposte」 外観。テラス席では豪快にピザを頬張っているドイツ人の姿があちこちに。 |
スタッフ一押しのパスタ。ルッコラの葉の大きさ、トマトのみずみずしさは、まさしく本場イタリアの味。値段は10.5ユーロで、パンがサービスでついてくる。 |
「Savignyplatz」駅に向かったのには、理由があった。昨日、偶然出会ったベルリン駐在の日本人に教えてもらった「美味しいイタリア料理店」が、その駅の高架下にあるらしいのだ。イタリアン激戦区のドイツでも評判の店なのだとか。
ふと時計を見ると昼も一時を過ぎており、きちんと昼飯を食べないとまた具合が悪くなってしまう。昨夜のような辛い思いは二度とごめんだ。
駅を降りると、レストランはすぐ見つかった。レストランの名前は「12
Aposte(ツヴォルフ・アポステル)」。ドイツにはイタリア人がたくさん住んでおり、各地で美味しいイタリア料理が食べられるらしい。
この店もそんなイタリア料理店のひとつ。とはいえ、私には、店員がイタリア人なのか、それともドイツ人なのかの区別
はつかない。なのに「あ、この店のスタッフはイタリア人だな」とすぐ分かったのは、店員の一人がイタリア代表の青いユニフォームを着ていたからだ。
私がテーブルについてからすぐ、ドイツ代表のユニフォームを着た4人くらいの団体が店に入ってきて、私のすぐ前のテーブルに座った。たちまち、イタリア代表ユニを着た店員と喧嘩が始まる…なんてことはなく、お互いサッカーファン同士、和気あいあいと交流していた。
注文を取りに来た店員に、店で一番のおすすめメニューを聞いてみた。ルッコラ、トマト、シーフードをふんだんに使ったパスタを勧められたので、それを注文する。ついでに店内の撮影許可もとった。
料理が出てくるのを待つ間、私は前のテーブルで談笑しているサポーターたちのところに行って、「今、ドイツで最も人気の選手は誰?」と聞いてみた。するとすぐさま「Ballack!」という返事が返ってきた。答えてくれたのは、シュヴァインシュタイガーの背番号入りユニフォームを着ている青年だった。その向かいに座っている、カーンの顔が縫い込まれたタオルマフラーを巻いている青年もうなずいている。
昨日、本屋で店員に同じ質問をしたときも、同じように「Ballack」と即答された私は、なんとなく腑に落ちない思いを抱えながらも、彼らに礼を言って席に戻った。あまりにも同じ答えばかり返ってくるので、かえって疑わしくなってしまったのだ。(ほんとに?私がアジアからの旅行客なのを見て、適当に、一番有名な選手名を答えているだけとちゃうの?)と。
そうこうしているうちに、注文したパスタがやってきた。予想していたとおり、日本のそれよりずっと量
が多い。もちろんゆで立てのアツアツだ。単品を注文したのに、おまけでパンもついてきた。だがパスタだけでお腹いっぱいになってしまい、そのパンをナプキンに包んで持ち帰ることに。「残したってどうせ捨てられるだろうし、もったいない」というのもあるが、昨夜のようなひもじい思いをしたくなかったのだ。 >>続く
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インテリアはルネッサンス風に優雅にまとめられており、まるでイタリアにやってきたような気分になれる。
12 Aposte
住所:Bleibtreustrasse 49・10623 Berlin
電話番号:030-3121433
営業時間:11:30〜19:00
http://www.12-apostel.de/
このとき取材した「日経レストラン」の記事
http://nr.nikkeibp.co.jp/topics/20060629/index2.html |