たまにはちょっと贅沢を
ストラネスの他にもう一件、高級時計店も、ショーウィンドーをサッカーでディスプレイしていた。観客席に向かって吠えるバラックと、熱狂するサポーター。「Ballack
Wir Lieben Dich!(バラック、あんたを愛してる!)」と書かれた旗も見える。今見ると、ちょっと切なくなってくるディスプレイである。(くどいようだが、これを書いているのはドイツワールドカップから5年後の2011年6月である)
|
時計店のショーウィンドウもワールドカップモードに。バラックの手前でかがんでいるのは、恐らくラーム。ボールがガラスにめりこんでいる様子を表したりと、芸が細かい。 |
それにしてもよく歩いた。「ちょっと休憩して、甘いものでもほしいな」と思ったちょうどそのとき。店頭にグリーンをあしらった、感じのいいカフェを見つけた。看板には「Wiener’s
Kaffeebar」の文字。開け放たれたドアから中をのぞくと、店内は細長く、手前にはカウンター、奥にはソファー席が見えた。白とブラウンを基調としたインテリアは、ゲーテ通
りにふさわしい、シックで大人な雰囲気が漂う。
安くすませるだけじゃなく、たまにはこういう店でちょっと贅沢してみたい。それに贅沢といっても、ケーキとドリンクならそんなに値段も張らないだろう。そう思った私は中に入った。
応対してくれたのは、これもまた感じのいい、金髪のスリムな女性。さすが高級ブランド通
り、店のスタッフも美人が多い。これぞ「目の保養」やなあと、オッサンみたいなことを思いながらカウンターに座った私の目は、たちまちすぐ前の、ケーキのショーケースに釘付けになった。(もうこの瞬間に、女性店員のことは頭から吹っ飛んでいる)
なんてどっしりとした、食べ応えのありそうなチーズケーキ! ああでも、上にあるザッハトルテのようなチョコレートケーキも美味しそう。そしてその隣のプチケーキの、コーティングされたチョコレートの艶めかしいツヤといったら! 一個1.50ユーロと手頃だし、二個くらいペロッと食べられそうだ。
悩んだ末に、選んだのはチーズケーキ。美人な店員さんに「お勧めは?」とたずねたらコレを勧めてくれたのと、ドリンクとの兼ね合いから。というのも、店員さんは絞りたてのオレンジジュースも「お勧めよ」と言ったのだ。初めはコーヒーを頼もうと思っていた私も、それを聞いて心が揺らいだ。なんといってもオレンジジュースは、ベルリンで、空腹と喉の渇きで倒れそうだった私を救ってくれた恩人である。これは頼むしかない! となれば、いかにも甘そうなチョコレート系よりも、チーズケーキの方が、ジュースと組み合わせてもクドくなく、バランスが良さそうだ。
メニューを注文し終えてから、店員さんに取材の許可を取り、店内の写
真を撮影。運ばれてきたケーキとジュースも、すかさず口に運びたくなるのをこらえて撮影する。ドイツ旅行も終盤のこの頃には、忙しそうな店員さんをいちいちつかまえて質問せず、質問ポイントをまとめておいて、最後の会計時に店員さんに聞くことにしていた。
注文を受けてからミキサーですり下ろすというオレンジジュースは、すっきりした酸味と濃厚なコクが合わさった、まさに混じりけなしの100%オレンジ。チーズケーキはレアとベイクドの中間のような味わいで、底にスポンジが敷いてあった。底のスポンジ以外にはほとんど小麦粉を使わず、ほぼチーズクリームのみを湯煎で蒸し焼きにしたようななめらかさは、ニューヨークチーズケーキに近いかもしれない。
たっぷり甘い物を食べて満足した後は、そろそろケルンに戻る時間だった。店を出てから、フランクフルト中央駅までの道のりは、なんだか物寂しい気分だった。明日の早朝、ケルンからデュッセルドルフ空港に向かって、それでドイツからさよならである。振り返れば、あっという間の10日間だった。寂しさを紛らわそうと、私は無理やりなこじつけを考えついた。最後の訪問先がフランクフルトというのは、なにやら暗示的だ。次にドイツを訪れるとき、真っ先に降り立つのはフランクフルト。そう、次こそは直行便でフランクフルトに来ることを暗示しているのだと。
|
|
次に来たときには入ってみたい、先史博物館 |
ドイツの真ん中に位
置し、ドイツ中から特急列車が到着するフランクフルト中央駅 |
|