「りんご酒を飲む」という目的を達成した私は、再びマイン川を渡ってフランクフルトの中心街へ。特に目的もなく歩いていると、地元のサッカークラブ、フランクフルト・アイントラハトのファンショップに遭遇した。中に入ると、アイントラハトだけでなく、バイエルンなど、ほかのクラブのグッズやユニフォームも売っている。ドイツ代表の応援グッズやユニフォームもあった。おそらくフランクフルトが「ドイツの空の玄関」であるという性格上、幅広いサッカーファンを対象にする経営方針なのだろう。
ファンショップを出たとき、クラクションを鳴らしながら、一台の車が走ってきた。窓から太極旗を突き出して、それを誇らしげに振り回している。それを見て初めて、今日、韓国の試合があったことを思い出した。列車の中で韓国人の若者と出会い、チケットまで見せてもらいながら、私はすっかりそのことを忘れていたのだ。クラクションとともに走り去る太極旗を見送りながら、そうか、勝ったんだ……と喜ばしい気持ちになる。チケットを見せてくれた彼も今頃、喜んでいることだろう。
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アイントラハトのファンショップのはずなのに、バイエルンのタオルマフラーがあったり、バラックとカーンのポスターがあったり。懐が深い。 |
一時期、高原選手や稲本選手も所属していた。
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その後も気ままに散策していると、繁華街にたどり着いた。大型デパートやブティックなどがひしめくショッピングストリートは歩行者天国になっており、ウィンドウを眺めるだけでも楽しい。脇道に曲がったりまた戻ったりしているうちに、「ゲーテ通
り(goethestrasse)」の看板が目に入った。高級ブランドが集まるストリートと聞いていたので、目の保養にとさっそく看板の下の細い道を曲がる。
すると聞きしに勝るブランド通りで、シャネルやティファニー、エルメスなどがずらりと並ぶ。なのに私はウィンドウを眺めて、そそくさと通
り過ぎるだけ。どのショップも日本のそれとは違い、お客がほとんどいないのだ。欧米の高級ブランド店には観光客がいっぱい。そう聞いていたのに、どうやらそれはフランスやイタリアなど一部の国だけで、ドイツのブランド店には観光客はほとんど来ないらしい。なのでじっくり落ち着いて商品を選びたい人には、おすすめだろう。だが私のようにハナから買う気などなく、ただ目の保養に商品を眺めたいという客は、店に入りにくいことこの上ない。ただでさえこちらでは、店に入る際、店員に挨拶をするのが礼儀だというのに。
場違い感を味わいつつも、それなりにウィンドウショッピングを楽しんでいた私は、ある店の前でぴたりと足を止めた。そのブティックのウィンドウに、バラックやポルディらのモノクロ写
真がカッコよく飾られていたからだ(ミーハー……)。
ちょっとお高い婦人服のブランドみたいだけど、ドイツ代表と何か関係があるのかしら。私はミーハー心を抑えられず、こわごわ店に入ってみた。いかにも「キャリア」という感じの洗練された女性店員が、笑顔で「いらっしゃいませ」と迎えてくれる。私はきごちなく「Please
Just looking」と答えてから、店内をざっと見て回った。シンプルだけどノーブルな、大人の女性のための服が並ぶ。こういう服を着こなせる女性になりたい、いやこういうお値段の服をサラッと買える人間になりたい。と、さりげなく値札を確認してから、ため息をつく。
どうやらサッカー選手をディスプレイにあしらっているのはショーウィンドウだけらしく、店内にはサッカーとの関わりを示すようなものはなかった。私は店員に礼を言って、そそくさと店を出た。後で分かったことだが、このブティックは「strenesse(ストラネス)」というキャリア系ブランドで、ドイツ代表のスーツやシャツをデザインしたらしい。だからバラックやポルディが「モデル」として使われていたのだ。そもそも、代表選手たちがストラネスの服を着てポーズを取っているビジュアルブックを、すでにケルンで購入していたのだ。だがそのときは「カッコいい写
真集だな」と思って購入しただけで、ストラネスとの関わりについては知らなかった。
>>続く
※このビジュアルブック「DIE DEUTSCHE ELF」はほんとにカッコいいので、その内容の一部をこちらで紹介
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ストラネスのショーウィンドウ。ガラスごしに撮影しているため、向いの街路樹などが写
りこんでいる。 |
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こちらもストラネスのショーウィンドウで、ポルディ&シュヴァイニ。それより、右のマネキンの股間が気になる。胸があるので女性設定なのだろうが、しかし? |