「2006年はドイツに行こう」
 次のワールドカップの開催地がドイツに決まった時から、私はずっとそう思ってきた。理由は幾らでもあげられる。ドイツサッカーが好きだから。行った人誰もが「ドイツのスタジアムの雰囲気は最高だ」と言う、あの一体感あふれる応援にまみれたいから。  
だが一番の理由はこれかもしれない。「2002年にワールドカップを生で体験してしまったから」。  それまでメディアを通してしか見れなかったワールドカップを、生で見れた、というより「味わえた」かけがえのない体験。ワールドカップとはスタジアムの中だけの出来事じゃない、スタジアム外での出来事も含めて丸ごとワールドカップなんだ、ということを教えてくれた。  
だからたとえチケットが手に入らなくても、ドイツに行こうと決めていた。スタジアム以外の場所で、たとえば広場のパブリックビューイング(以下PV)やビアホール等で、ドイツ人と一緒にスクリーン観戦するだけでも楽しいはずだ。もちろんそれは、私がドイツファンだから、というのが根底にある。

 とはいえ、やはりできることならチケットを手に入れて、一試合でいいからスタジアムで観戦したい。2002年の日韓ワールドカップでは、幸いにも二試合観ることができた。カシマサッカースタジアムで観た、ドイツ対アイルランド戦。長居スタジアムで見た、トルコ対セネガル戦。後者の試合は、当時長居近辺のマンションに住んでいたこともあり、「家から歩いてワールドカップを見に行った」かけがえのない体験でもある。  
 だが試合そのものは、前者の方が印象的だった。ドイツファンの私はドイツを応援しようとチケットを購入したが、あいにく席はアイルランド側。最初は不満に思ったけど、試合が進むにつれてアイルランドのひたむきなサッカーに心を奪われ、気づけば「アイルランドが一点取って、この試合を引分けで終わらせてあげたい」と願っていたのだから、雰囲気に弱いというかなんというか。筋金入りのドイツファンに「この軟弱者」と罵られても仕方ない。
 言い訳すると、きっとアイルランドサポーターで埋まったアウェイ側スタンドの真ん中で観戦していたのも、アイルランドに感情移入してしまった大きな一因だった。目の前でプレーしている選手たちと同じく、彼らの応援もひたむきで、最後まで勝利を信じて声援を送り続けた。自国への思い、サッカーへの愛。それらが何のてらいもなくほとばしるワールドカップは、やはり現地で体感するに限る。4年後はドイツに行こう。そして今度はドイツサポーターたちにまみれながら、ドイツを応援しよう。最初はドイツを応援してたくせに、途中からアイルランド応援に寝返った後ろめたさを払拭するためにも(?)、ドイツ本国で、大勢のドイツサポーターとともにドイツ代表を応援したい。そう思った。
 二年前に会社を辞めてフリーライターになったのも、ドイツに行きたかったから。好きなときに好きなだけ休めるフリーランスなら、ワールドカップ中のドイツを満喫できると思ったのだ。
だがもちろん現実はそれほど甘くはなく、「好きなだけ」休めるという訳にはいかなかった。15日から仕事が入っていたため、14日には帰ることに。それでも10日間の旅行日程が組めたのだから、思いきってフリーになって正解だった(ビンボーにもなったけど)。

 だが休みは取れても、チケットは取れなかった。努力はしたが、ことごとく抽選に外れたのだ。インターネット販売に以降してからも、サーバーが重くてチケット購入画面 まで辿り着けない。結局、チケットなしでドイツに渡るはめになった。
 でもいいのだ。前述したように、PVやビアホールで観ることになっても、それはそれできっと楽しいはず。それに「現地のチケットセンターで前売りが売っているらしい」「当日券が販売されるらしい」などの噂もある。とりあえず現地に飛んで、チケット入手の可能性を探ろう。行ってしまえば、なんとかなる!
 そう割りきった私は6月5日朝、関西国際空港からドイツへ向けて飛び立ったのだった。