W杯の醍醐味のひとつに、異国からやってきたサポーターの熱狂ぶりを肌で感じる感動があるとすれば、間違いなく私は今大会最高の試合を観戦できたにちがいない。
――――と言いきれるほど、アイルランドからやってきたサポーターたちは熱かった。まあ、わざわざ遠い日本にやってくるぐらいだから熱いのは当たり前だが、驚くべきはその数である。翌日の新聞によると、この日スタジアムにいたアイルランドサポーターの数はおよそ8000人にのぼるそうだ。が、現場にいた私にはもっと多く感じた。なんたって、収容人数41800人のカシマサッカースタジアムの約半分以上を、緑に染めてしまっていたのだから。この試合、名目上はドイツがホームでアイルランドはアウェイだったのだが、その圧倒的な数と声のパワーで、完全にホーム状態にしてしまっていた。
 おそらく日本でグループリーグを戦う国の中で、もっとも多くのサポーターが来日したと思われる。実際、スタジアム以外の場所でも実によく見かけた。大阪在住の私はこの試合を見るため、夜行バスに乗って東京へ向かったのだが、翌朝バスが東京駅に着いた時から、すぐさまライトグリーンのアイルランドユニを着た人たちが目に飛び込んできた。
 そしてその後どこに移動しても、まるで私をストーカーしているのかと思うくらい、どこにでも緑色の団体を見かけた。……って、同じ試合を見に行く者同士なのだから、同じルートを辿っているのは当たり前なのだが(笑)。
 ちなみに私は東京駅で、前日ネットで連絡を取りあった人たち(お互い全くの初対面 )と落ち合った後、車でスタジアムへと向かった。途中、知人を拾うためJR成田駅に寄ったが、そこでもアイルランドサポを大勢見かけた。きっと飛行機で成田空港に到着した後、空港に近いこのあたりのホテルに宿泊しているのだろう。
 が、スタジアムまで車で向かった私はまだ甘かったらしい。電車でスタジアムに向かった人の話では、電車の中はアイルランドサポであふれ返り、ほとんど「アイルランドサポ専用列車」の相を呈していたらしい。
  その話を聞いた時、関西人的な例え方で申し訳ないが、まるで甲子園で試合がある日の阪神電車のようだ、と思った。どちらもこれから始まる試合を楽しみにしているファンが車内を占領し、スタジアムに入る前からお祭り気分を盛り上げる「祭りの中の一風景」だろう。
  が、大きく違うのは、阪神ファンはそのほとんどが我々と同じ日本人であるのに対し、アイルランドサポはほとんどが、異国からやってきたアイルランド人であることだ。これはもう、阪神ファンであふれ返る阪神電車とは比にならないくらい異様な、非日常的な光景だったであろうと思われる。ふだん見慣れた電車内が、突然、外国人に占領されたのだから。しかも皆、服装はレプリカユニで統一されている……ならまだしも、まるでチンドン屋かと見まがうくらい珍妙な格好をしている人も大勢いるし。何も知らずに電車に乗り込んできた人は、いったいこれは何事かと仰天したのではないだろうか。
 当然、試合後も、行きの電車とほぼ同じ光景が見られたらしい。違うのは、騒ぎすぎて疲れたサポーターたちが、網棚の上で寝てしまう光景が続出したことだけだとか(笑)。
――――というような話を、その場に居合わせた日本のファンは本当に嬉しそうに話してくれる。それは彼もまた、W杯の楽しみのひとつに、異国のサポーターとの触れ合いがあるということを知っているからに違いない。ただ試合を見るだけが、W杯の目的ではないということ。W杯という世界最高の大会が日本で開催されなければ、決して会うことはなかったと思われる、世界各国のサポーターたち。言い尽くされたうえにクサイ言い回しかできないのが恥ずかしいが、たとえ肌の色や言語は違っても、同じサッカーを愛する者どうしの連帯感というか、そういう幸せな熱気がスタジアム内外に充満していたと思う。 特にサッカーの本場といわれる国からやって来たサポーターの応援風景を間近に見たり、またその中に混じって一緒に応援することは、サッカーファンにとってかけがえのない体験に違いない。

⇒続く

 

 


試合前、スタジアム横の公園でみつけた可愛いアイリッシュ・キッズ。おそらく兄弟。
手に持っているのは、公園に出ている屋台が 無料で配っていた ポンポン菓子。

インディアンの扮装をしたアイルサポのおじいちゃんと。
最初、ドイツユニ着たまま記念撮影しようとしたら「ブーッ」とブーイングされたので、慌ててユニ脱いだら拍手喝采されました。楽しい人たちだ。
というか、ドイツユニ着てるくせに記念撮影お願いする私が、
そもそも非常識ですね(^^;)。
羽野羊子 = ・写 真
フリーライター。といってもスポーツライターではなく、サッカー観戦は完全に趣味。

ブログ
http://still-crazy.jugem.jp/


[これまで執筆した観戦記]
●レヴァークーゼン対FCヴァレンシア観戦記
(2011-2012 チャンピオンズリーグ)


●今日、ドイツの街で
(2006年W杯・開幕戦PV観戦記)