そういった意味でも、アイルランドから大勢のサポーターがやってきてくれたことは、日本のサッカーファンにとって幸せだった。試合が始まる三時間前から、カシマスタジアム横の公園はアイリッシュたちでごった返し、あちこちから彼らが歌う応援歌が聞こえてくる。小高い土手の上に陣取って、オーレ、オーレと大声で気勢を上げている。かと思えば、地元の自治体が用意した様々なイベント――――餅つきや、お神輿、獅子舞などに目を輝かせて興じている。
またサポーターの扮装も、全員が揃いも揃って同じ格好(代表のレプリカユニ)をしている日本のサポーターとは違い、各自がそれぞれ工夫を凝らした扮装をしていて、見ていて飽きない。ケルト神話にちなんでいると思われる妖精の格好が一番多かったが、その他にも女神や司祭、神々など、まるで中世のおとぎ話か、ドラクエの世界に紛れ込んだよう。かと思えば、日本に来てから買ったと思われる着物や法被を得意げに着こなしているおじいちゃんもいたり、もうさまざま。彼ら自身もまた、こうしたコスプレを楽しんでいるのだろう。写
真撮影を求められると嬉しそうにポーズを取っていた。
意外だったのは、そうした目につく奇抜な格好をしていたのは、圧倒的に年配の人が多かったことだ。青年サポーターは、日本と同じで、普通
にレプリカユニを着ている人が多かった。
だからよけいに、年配の人が目についたのかもしれない。いや、服装の奇抜さを外して見ても、全体的にアイルランドサポーターは、おじさん世代が多かったように思う。中には、おじいちゃん、と呼べるような年代の人もいた。サポーターといえば「血気盛んな若者」というイメージが定着している日本の私から見ると、これはかなり意外で、また新鮮だった。そういえば、アイルランドと同じく大量
来日したイングランドのサポーターも、見たところ圧倒的に若者が多かったような。
だからといって、「おじさんサポが多いアイルランドは、世界的に見ても異例」とは安易に言いきれないけれど。でも試合を見ているうちに、もしかしたらアイルランドのサッカーが、おじさん世代の心に響くから、それでこんなにおじさんサポが多いのかもしれない、とふと思った。アイルランドの試合を見た方なら分かると思うが、彼らのサッカーは決して派手ではない。W杯出場が今回で3度目ということからも分かるように、決して他を圧するような強豪国ではない。
きらびやかなスター選手もいない。唯一、ワールドクラスのスター選手だったロイ・キーンは、開幕直前に監督と衝突し、チームから離脱して帰国してしまった。このニュースを聞いた時は、ドイツびいきの私もがっくりきた。せっかく実力の均衡した好勝負が見れると思ったのに、ロイ・キーンがいなくなったアイルランドなんてチーム力半減じゃないか。ドイツファンとしては楽に勝てそうで良かったかもしれないが、面
白い試合が見たいサッカーファンとしては残念なことこの上ない。
が、いざ試合が始まってみると、ロイ・キーンの不在などすっかり忘れて、目の前で繰り広げられている、国と国とのプライドをかけたぶつかり合いを息を呑んで見守っていた。
試合は「守るドイツ」と「攻めるアイルランド」という、実に分かりやすい展開になった。が、構図が単純な分、両チームの良さがぎゅっと凝縮されて、グループリーグとは思えない白熱した試合となった。
本文中でも触れたように、目につく奇抜な扮装をしている人は、圧倒的に年配のサポーターに多かった。なんでだろ? |