ヘンネスとは、ドイツ・ブンデスリーガのサッカークラブ「1.FCケルン」のチームマスコットの山羊のこと。といっても着ぐるみなんかじゃない。生きている、本物の山羊である。その証拠に、現在の山羊は7代目で、正式名は「ヘンネス7世」。ちなみに独身。
ホームでの試合中はいつもベンチ近くにつながれており、テレビ中継では必ず映される。特に1.FCケルンのファンではない私が、つい試合中継を見てしまうのも、このヘンネスがいるからこそ。白熱した試合の最中に、いきなり「のほほん」とした表情の山羊がアップで映される、あのギャップがいい。たまに近くにボールが飛んでくることがあっても全く動ぜず、表情一つ変えない、あの見かけによらぬ
強心臓ぶりもいい。
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「ヘンネス7世」と、世話係のおじさん。おじさんの名前は
Schaefer (シェーファー)さんで、意味は「羊飼い」。
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もちろん地元でも人気者で、試合中、スタンドのケルンサポーターがヘンネスのぬ
いぐるみを持って応援しているのをよく見かける。いいなあ、私もヘンネスのぬ
いぐるみが欲しい。別にケルンのサポでもなんでもないけど、ヘンネスのぬ
いぐるみだけは欲しいなんて言ったら、ケルンサポから白い目で見られるだろうけど。普段ぬ
いぐるみには興味なんかないくせに、ヘンネスのぬいぐるみには惹かれるんだよなぁ。
一応、FCケルンのネットショップでも買えるみたいだけど、やはり自分の目で実際に確かめて買いたい。大量
生産のぬいぐるみとはいえ、みな、微妙に顔が違うはず。たくさんの中から一番気に入ったコを選んでこそ、愛着がわくというものだ。
となれば、ケルンのリアル店舗に行って買うしかない。なので今回のドイツ旅行で、滞在先がケルンに決まったときは「やった」と思った。別
にヘンネス目当てでケルンに決めた訳ではない。部屋を貸してくれるH氏が偶然、ケルン在住だっただけである。だがそんな「偶然」に運命の出逢いを感じつつ、心躍らせてケルンに向かったのだった。
ケルンの街はWM一色だった。それはいい。寂しいのは、サッカーグッズを扱っているどの店も、あんまりパッとしないライオンのグッズであふれているということだ。ケルンのアイドル(と私が勝手に決めつけている)、ヘンネスのグッズがどこにもない。ケルンではそこらの雑貨屋やおもちゃ屋で当たり前のようにヘンネスグッズが売られていると思っていた私は、肩透かしを食らってしまった。今をときめくWM公式マスコット、ゴレオ6世グッズに押しやられて店頭から消えてしまったのだろうか?
こうなったら、1.FCケルンのファンショップに行くしかない。だが「ケルンを歩けばヘンネスに当たる」と思い込んでいた私は、ファンショップの住所を前もって調べていなかった。さっそく、これまでにも何度も助けてもらった、ケルン中央駅のインフォメーションで訪ねてみる。私が旅行客だということを察した受付の女性は、私が差し出したメモ帳に行き方を書いてくれた。
Koeln Arcaden S12→Trimbornstr.
Koeln Arcadenというのが何なのか分からなかったが、とりあえずSバーン12番線「Trimbornstr.」駅で降りればいいらしい。だがそのメモを家に帰ってH氏に見せると、彼いわく「UバーンのKalk
Post駅で下車した方が分かりやすい」という。その言葉を頭にとめた私は、さっそく翌日、行ってみることにした。
ドイツの地下鉄・UバーンのKalk Post駅を出て地上に出ると、すぐ前方に巨大なショッピングモールがそびえていた。Koeln
Arcadenというのは、このショッピングモールの名称らしい。この中に1.FCケルンのファンショップがあるという。私はさっそく中に入った。
入ったとたん、「ここは本当にドイツか?」と錯覚を起こしそうになった。日本各地にあるショッピングモールとまったく同じ構造、雰囲気なのだ。二階建てで、横に広く、小ぎれいな小売店舗がずらっと並んでいる。やはりショッピングモールというのは、どの国も似たような雰囲気なのか。アメリカ発祥のこの新しい商業施設はドイツでも確実に増えており、このK嗟n
Arcadenも最近、新たに建設された施設らしい。なので内装もまだ新しく、壁も床も白く輝いていた。
だが構造は日本のそれとよく似ていても、中の店舗はどれもドイツ独自のものだ。もともと1.FCケルンのファンショップだけが目当てでここに来た私だが、他の店にも大いに興味をそそられて、あちこち見て回った。そのあたりについては「ショッピングモール・アドベンチャー」に記したので、参照されたい。
ショッピングモール店内。天井がガラス張りになっており、店内は明るく開放的。
WM開催中とあって、WMを盛り上げる垂れ幕や展示物が至るところに飾られていた。
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本文中で「パッとしないライオン」とか酷い言われようのゴレオ6世。WM公式マスコットとして、ショッピングモール内でもあちこちで見かけた。
(写真は、 書店のWMコーナー)
さんざんけなしておいて何だが、実はそんなに嫌いではない。
いっこもグッズは買わなかったけど。 |
ここでは、ファンショップへ行ったときのことに的を絞って書いてみたい。ファンショップは日本風にいうとショッピングモールの二階、ドイツ風だと一階にあった。…どういうことかというと、ドイツでは建物の一階をEG(地上階という意味か?)、二階部分を1.OG(一階)と表記するのだ。ちなみに地下はUG。
ファンショップはすぐに見つかった。店頭のショウウィンドウに、ほぼ等身大と思われるヘンネスの白いフィギュアが飾られていたからだ。中に入ると、さらにすごい。棚という棚がほとんどヘンネスのぬ
いぐるみで覆いつくされている。知らない人が見たら、とてもサッカークラブのファンショップとは思えない。ここまでマスコットがでしゃばっているファンショップが、他にあるだろうか?いや、ない(断言)。
1.FCケルン随一のスター選手で、エースストライカーであるポルディ王子ことルーカス・ポドルスキー選手ですら、グッズの数ではヘンネスに圧倒されている。選手よりマスコットの方が目立っているクラブって、いったい…(笑)。
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店内はまさにヘンネスづくし。ほんとにここはサッカーショップかと錯覚してしまうほど。
左 1.FCケルンのユニフォームを着たヘンネス。
WM公式マスコットのライオンと違い、ちゃんとパンツを履いているのがお行儀良い。
どことなく顔がポルディに似ているような気もする。
手前に映っているのはヘンネスのイラスト入り哺乳瓶
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同じぬいぐるみでも、寝そべりポーズと、立ちポーズの二種類がある。立ちポーズの方は、一匹だけだとちゃんと立てないぬ
いぐるみも多いので、購入の際にはしっかりチェックするべし。
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店内は所狭しと飾られたヘンネスのぬいぐるみで溢れていたが、それらのぬ
いぐるみは大きく分けて二種類あった。ケルンのユニフォームを着たバージョンは、なんとなくマンガちっくで、笑った顔がどことなくポルディに似ている。だが私が一目見て惹かれたのは、より現実のヘンネスに近いバージョンだった。こちらも、顔や体のつくりは同じでも、四本足で立っているポーズと、寝そべっているポーズの二種類あった。1.FCケルンのキャラクター販売企画部(そんな部署があればだが)が、このヘンネスのぬ
いぐるみにかける情熱が伝わってくるようである。おそらく、ファンショップでもっもと売れる商品なのだろう。
寝そべりポーズの方が抱き心地は良さそうだが、ぬいぐるみを抱きしめる趣味はないので、
立ちポーズのぬいぐるみを買うことに。だがここから時間がかかった。というのも、ちゃんと自力で、他にもたれかかることなく立てるぬ
いぐるみが少ないのだ。やっぱりネットショップではなく、リアル店舗で買うことにして正解だった。
もちろん顔の微妙な表情の違いも、ぬいぐるみを選ぶ重要なポイントである。厳しいチェックの末、買ったのはこのコ。ちゃんと四本足でまっすぐ立てるし、ちょっと小首をかしげた、とぼけた表情がいい味を出している。やはりぬ
いぐるみは単にかわいいだけでなく、そのぬいぐるみならではの「味」がなくては。
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購入したヘンネスのぬ
いぐるみ。
「Plusch-Hennes,14cm」12.90ユーロ
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サッカークラブのファンショップとは思えない、このベビーグッズの充実ぶりを見よ。
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レジでぬいぐるみの精算を済ませた後、私は店員に名刺を見せて、写
真撮影の許可を請うた。先に買い物をしたのが好印象だったのか、返事はOK。
当初の目的を達成した私はすっかり満ち足りた気持ちで、カメラ片手に店内を見て回った。ぬ
いぐるみの他に目立ったのは、ベビーグッズ コーナーだった。ヘンネスのイラストがアップリケされた、赤と白のFCケルンカラーのベビースーツに、靴下、哺乳瓶、おしゃぶりまである充実ぶり。ケルンに生まれた赤ちゃんは、ヘンネスのベビーグッズ
を身につけて育つといっても過言ではない…というのは、さすがに言い過ぎか。
だがサッカークラブのファンショップにしては、このベビーグッズコーナーの充実ぶりは珍しく、異様な感じすら受けた。というのも、私はドイツ滞在中、ヘルタ・ベルリンやアイントラハト・フランクフルトの
ファンショップにも立ち寄ったが、いずれの店にもベビーグッズコーナーなどなかった。考えてみれば、当たり前だ。そしてますます、FCケルンファンショップの特異性が浮き彫りになった。他のクラブとの違いは、やはりマスコットであるヘンネスの存在と、その人気ぶりだろう。そしてその人気も幅広いのでは。いくら人気チームとはいえ、ケルンのサポーターがそんなにしょっちゅう妊娠したり出産したりするはずがない。ファングッズを持って応援するコアなサポーターだけでなく、普段は特にサッカーに興味はないけれど、たまたま「赤ちゃんの出産祝いに、ヘンネスのベビー服なんかいいんじゃないかしら」と思いついて買いに来るようなライトな客がいなければ、ここまでベビーグッズは充実していないはず。
もちろんヘンネスグッズの他にも、ユニフォームやキャップ、マフラーなどのサポーターグッズも販売されている。
ポルディの顔写真入りマグカップや、アクションフィギュアがずらりと並ぶ「ポルディコーナー」も店内の一角に設けられている。だがそれ以外はほとんどすべてヘンネス一色。ヘンネスを讚える曲が収められたCDまで販売されていた。それもジャケットを見た限りでは、クラシックのオーケストラっぽい。さすがクラシック大国ドイツである。
る、る、るーかすぽどるすきー♪
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ちょうど一週間ほど前にFCバイエルンへの移籍が決まったため、もしかしたらファンショップからポルディのグッズは消えてるかも…と思っていたが、しっかりあった。まあ、WMが終わるまではケルンの契約選手だし、それにもしかしたら在庫一掃処分セールだったのかも(笑)。
顔写真がプリントされたマグカップや、イニシャル「LP」がデザインされたキャップ、そしてアクションフィギュア「Kick-O-Mania」がずらりと並ぶ。マグカップと同じ顔写
真がプリントされたTシャツを着ている男性もときどき見かけた。
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私はヘンネスグッズにしか目がいかなかったが、ユニフォームやキャップ、マフラーなどのサポーターグッズももちろん販売されている。FCケルンファンはもちろん、ヘンネス好き、山羊好きな方はぜひ一度訪れてみてほしいファンショップだ。
FanShop
in den Koeln Arcaden
住所 Kalker Hauptstraァe 55 51103 Koeln
電話 0221-1684706
http://www.fc-fanshop.de/ |
こうして、念願かなってヘンネスのぬいぐるみを購入した私は、意気揚々とニールの家に帰った。だがその夜、新聞でショッキングなニュースを知ることになる。いつも試合中、ヘンネスの綱を握って座っている世話係のおじさんが、昨夜、亡くなったらしい。新聞には、哀しげな目をしたヘンネスのアップが掲載されていた。それを見て、私も一気に哀しい気持ちになってしまった。
そうか、ファンショップでは買い物に夢中で気づかなかったけど、レジの店員さんが妙に元気がなかったのは、このためだったのかも。ヘンネス同様、世話係のおじさんも、きっとケルンでは皆から慕われ、敬愛されていたはずだから。
こうして私のヘンネス購入体験は、ちょっぴり物悲しい思い出とともに終わった。だがケルン滞在中、私がもっとも興奮した「ヘンネスとの出逢い」は、実はファンショップではなく、街中でだった。ケルンでは市電が「市民の足」として活躍しており、その細長い車体いっぱいに描かれた広告を見るのも楽しみのひとつだ。車体の広告は様々で、私は勝手にそれらを「ソーセージ電車」「キッカー電車」などと名付けていたのだが、中でももっとも忘れられないのが「ヘンネス電車」に出会ったときだった。いや正確には「1.FCケルン電車」なのだろうが、にっこり笑っているようなヘンネスの顔のアップや全身像など、大小さまざまなヘンネスが車体のあちこちにプリントされ、車体は真っ赤なFCケルンカラー。とにかくキュートで、私は見たとたん目がくぎ付けになってしまった。きっとそのとき、私の目はハート型になっていたに違いない。
旅行前に私が勝手に想像していた「ケルンを歩けばヘンネスに当たる」というのはまんざら嘘ではなかったんだ、と実感できた瞬間でもあった。だって本当に、歩いていたら突然、ヘンネスと出会ったんだもの。出逢いが唐突だったぶん、感動も大きくて、私の中でもっとも忘れられない「ヘンネス体験」になった。感動のあまり
写真に撮るのも忘れるほどで、後から「撮っときゃよかった…」と後悔したが、そのときはまた後で会えるだろうと思っていたのだ。だが結局、ヘンネス電車に出会えたのはそのときだけだった。残念。今度行ったらぜひ写
真に撮りたい…のを通り越して、ミニチュア模型があったらぜったい買いたい。ぬ
いぐるみが買えていったんは収まったはずの「ヘンネス欲」に、どうやらまた火がついてしまったようである。
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ヘンネス電車を撮り損ねたので、代わりにドルトムントで目撃したキッカー電車を。キッカー(kicker)はドイツでもっとも権威あるサッカー雑誌のこと。
もともと市電が好きな私だが、こんなカラフルなデザイン電車が普通
に街中を走っているドイツって、いいなあ。 |
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