旧地下食堂から中之島倶楽部へ。
リニューアルを超えて受け継がれた、名物オムライス秘伝のレシピ。

 中之島のシンボル、中央公会堂。外観は何度も見たことがあるけれど、中に入ったことはない、という人は案外多いのではないだろうか。ネオ・ルネサンス様式の建物はとっても絵になってステキだけど、我々庶民にはちょっと敷居が高くて、何か用事でも無い限り気軽に中に入れるような雰囲気ではない。ましてや、公会堂の中にあるレストランなんて、とっても高そう…と思いがちだが、ところがどっこい。外観の重厚さ、内観の華麗さとは裏腹に、地下にはとってもリーズナブルで美味しい食堂があったのだ。

 公会堂と同じ大正時代に作られたと思われるこの食堂、正式名は「大阪ホテル中央公会堂食堂部」といい、大阪で最も古いホテル会社が運営していた。「していた」と過去形になってしまうのがなんとも寂しい。1999年から2002年にかけて行われた公会堂の大規模な改装工事の影響を受けて、工事前の1998年12月に閉鎖してしまったからだ。

  改装後の再オープンまで約3年半。社長兼ウェイターのおじいちゃん曰く「他に支店もないし、3年半も待ってられん」との理由から、会社は解散、改装後は別 のレストラン業者が入ると聞いた時は、心底「もったいない…」と思ったものだ。そのレトロっぷりは公会堂本体に負けず劣らず。昔の建物独特の高い天井、その天井でゆっくりと回るレトロな扇風機。創業の頃から使っていると思われる、今はもう動かない木のレジスター(1000円までしか計算できないらしい)。カップやお皿を置いた時に響く「カツン」という音が心地よい大理石のテーブルに、木製の椅子。建物がレトロなら、働く人もレトロ。年期の入ったおじさんウェイターにおばさんウェイトレス。彼らの給仕ぶりもまた堂に入っていて、見事だった。
  さらに嬉しいことに、ほとんどのメニューが500円前後という安さ。でも付け合わせのトマトはちゃんと皮が剥いてあったりして、本格派の洋食が食べられる店として親しまれていた。レストランガイド等にはまず掲載される事のない店なのに、近隣のビジネスマンやデート中のカップルで、昼休みはいつも盛況だった。そして彼らはほとんどみな、オムライスを食べていた。そう、どこか懐かしい正統派のオムライスがここの名物だったのだ。  まるで大正時代にタイムスリップしたかのような、大都会の中の異次元空間。だからこそ、2002年にリニューアルオープンした時は怖くて、同じ場所で別 の業者が始めたレストラン「中之島倶楽部」に行けなかった。改装してずっとお洒落に、きれいになったのはいいけれど、昔の面 影はなくなったと聞いていたから。たとえ多少ぼろくても、以前の内装と全く同じに戻して欲しかった…。

 だが最近、口コミで「でも、あの名物オムライスは昔のままだよ。業者もシェフも変わったけど、オムライスのレシピは次の店に渡したらしい」と聞き、「ホンマかいな」と思いながら先日こわごわ訪ねてみた。確かに、内装は見違えるほどゴージャスになっている。レトロはレトロなんだけど、以前の食堂が「庶民的レトロ」だったのに対し、今のレストランは「高級感あふれるレトロ」という感じ。
  気になるオムライスの方も、以前のトマトケチャップではなくデミグラスソースになっており、その上にさらにリコッタチーズが盛られて、ぐっと高級感アップしていた。味の方は、さすがに「あの味と全く同じ」という訳にはいかないけれど、でもこれはこれでちゃんと美味しい。人によっては、以前より美味しいと思う人もいるだろう。なんでも、「以前の味を踏襲しつつ、ちょっと現代風にアレンジした」のだとか。
  ただひとつ残念だったのは、ウェイターが今風の茶髪兄ちゃんばかりだったこと。やはり、レトロな建物にはレトロな従業員が似合うと思うのは、客の勝手なわがままだとは承知しつつ…。

※フリーペーパー御堂筋2004年5月号に掲載されたものを再構成してUPしました。

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