試練を夢につなげて
開幕前には「今シーズンで引退」をほのめかしていたバラックだが、この試合の直後から、契約延長を望む声が大きくなった。バラックも自身の体調とプレーに自信を得たのか、「あと1年か2年、プレーしたい」と口にするようになった。だがすんなり契約延長するかどうかは、まだ分からない。彼は「レヴァークーゼンにいて幸せだ。あらゆる素晴らしい瞬間を吸収している」と言いながらも、海外移籍をほのめかし、その国でキャリアを終える可能性も語ったのだ。
私を含め、レヴァークーゼンを終着地に選んだと思っていた多くのファンは驚いた。だが驚きながらも、応援している。バラックがどういう形でキャリアを終えるか、本人の納得のいくようにすればいい、と。
ドイツ代表のときは本人がそれを決める前に、周囲から「早く引退しろ」と急かされ、批判を浴びるなかで、代表監督からクビを言い渡された。だからせめて現役引退は、自らの意志で決めたいのだろう。上から強制される形ではなく。
ファンはそんな彼の気持ちを知って、応援している。困難な時期を乗り越えた今、彼は再び海外移籍を目指すほど、充実のときを過ごしている。キャリアの終え方について自ら語り、選びとることができるのは、ごく限られた選手だけに与えられた特権でもある。
後の時代になって、バラックという選手を語るとき。マスコミはそれでも彼を「悲運の選手」とカテゴライズするだろう。
「あと一歩のところまで勝ち上がりながら、結局は大きな国際タイトルを獲得できなかった、悲運の選手」「最後のチャンスだったW杯前に重傷を負って代表から外れ、以後、再び代表復帰することはなかった」――と。ここまではいい。だがレヴァークーゼン復帰後の活躍も、「なかったこと」にされるのではないか。「その後レヴァークーゼンに移籍したが、もはやかつての輝きはなかった」とまとめるのではないか。そんな気がしてならない。
私もマスコミのはしくれなので分かる。重傷を負ってW杯を欠場した後は、坂道を転がり落ち続け、結局這い上がれずに引退した方が「悲運のストーリー」として分かりやすいし、おさまりがいいからだ。
レヴァークーゼンがチャンピオンズリーグで優勝したり、バラックがまた代表に復帰でもすれば、また違ってくるだろう。が、それらが実現しない限り、2011-2012シーズンのバラックの復活劇は「なかったこと」にされて、最後まで「悲運の選手」としてキャリアをまとめられる可能性が高い。
だからこそ私は、ここにはっきり書き残しておきたいのだ。2011-2012シーズン、バラックは再びリーダーとして輝いていたことを。そして、世界でもっとも幸せな選手だったことを。
〈文責 / 羽野羊子 2011.11.23執筆〉
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